2006年12月09日

オーガニックPSB図鑑 Pet Shop Boys 「Concrete」

Concrete.jpg「ペット・ショップ・ボーイズ、デビュー20年目にして初のライヴ・アルバム!」というのが売りの2枚組。ただ、この手のグループ(ヴォーカルとシンセサイザーの二人組)の場合、ライヴは往々にしてレコードの焼き直し、というか下手するとレコードの音をそのまま流してカラオケ状態、というパターンが多いので、事情がよくわからないと、「それがどうした」ってのが大方の反応だと思う。僕はずっと昔にデペッシュ・モードのコンサートに行って、音はレコードそのまま、ヴォーカリストの一挙手一投足に女性ファンの歓声、というのを見てから、こういうシンセバンドのコンサートにはもう行くまいと心に決めたものだった。

ただ、PSBの場合、これまでに数々のライヴ・ビデオが存在し、実は僕はその全てを押さえている。しかも、音楽もののライヴ・ビデオって一回見たらそのままというものも多いんだけど、彼らのは結構繰り返し見ることが多い(特に、まだDVD化されていない「Discovery」が最高)。それぐらい、見ていて面白い。動きのないヴォーカル&シンセという構造を逆手にとって、寸劇あり、ダンスあり、プロジェクターによる映像の投影ありと、毎回あの手この手で楽しませてくれる。本人達のかぶり物や衣装もいつもなかなか笑わせてくれる。

彼らもその点をよくわかっているから、これまでライヴもののパッケージメディアは全て映像付きで発表していたのだろう。それが、さっきも書いたように今回20年目にして初めてのライヴCD。しかも2枚組。よほどのきっかけがなければ出さなかったはずのアルバムだろう。

そのきっかけというのが、BBCコンサート・オーケストラとの競演。元々がどういう経緯だったのかは知らないが、今年の5月に招待客だけを入れたコンサートを録音し、BBCラジオで放送された音源のようだ。

実は彼らの曲には、フルオーケストラやクラシックの弦楽器が使われたものが多い。実際にオーケストラと録音したものもあれば、サンプリング音を使っただけのものもあるんだろう。それを今回はライヴで、というわけだ。確かに、「初めてオーケストラと一緒に録音した」と前置きされて始まる「Left To My Own Devices」などを、CDで聴き慣れたのと少し違う弦のアレンジで聴くのは興味深いし、「Rent」のように元々はシンセだけで演奏されていた曲を全く違ったフルオーケストラ付きのアレンジでこうして聴くと、改めて彼らの作曲能力の高さを思い知らされる。

話は逸れるが、先述のライヴ・ビデオでもこの「Rent」や「Suburbia」などをアコースティックギターの弾き語りで聴かせるコーナーがあり、それまで安っぽいシンセポップバンドだと思っていた彼らが実は優れたソングライティングチームだということを認識したのを覚えている。もう番組はなくなってしまったけど、もし彼らがMTVのアンプラグドに出ていたら、皆びっくりしてたはずだと思うよ。

オーケストラが付いていること以外にも何か音の感触が違うと思ったら、今回はバックにギター2人、ピアノ、ベース、ドラムという普通のバンドが付いていた。ベースは最近の彼らのCDのプロデューサーでもあるトレヴァー・ホーン。何人もいるコーラス隊の一人は、メンバー紹介のときに洟をかんでいたらしい(笑)ロル・クレーム(10ccの1/4、ゴドリー&クレームの1/2)。そのあたりが僕の興味を引くメンバーかな。とにかく、この編成のお陰で、今回のライヴの音はいつもと違って実に有機的な感じがする。もちろん、ちゃんとシンセの音も入ってるんで(さもないとメンバーの片割れ、クリス・ロウの立場がないからね)、いつものPSBの音でもあるんだけど。

それでいて、聴いていてライヴのダイナミズムにいまいち欠けるのは、一曲ごとにニール・テナントが丁寧に曲紹介をするからだろう。曰く、「この曲のオリジナルのオーケストラアレンジは誰々で」「この曲はニューアルバムからで、観客を前にして演奏するのは今日が初めて」云々。まるで博物館で解説を読んだり、図鑑を見ているような感じがしてしまう。まあ、日本で言うNHK放送用のライヴ録音なんで、自然とそうなってしまうのかもしれないが。

その他の話題と言えば、ゲストヴォーカリストが3人も入っていること。最近マニア受けがすごい(PSBとはゲイ仲間?の)ルーファス・ウェインライト、ジャズ畑からフランシス・バーバー、そしてロビー・ウィリアムズ。ただ、3人ともニールとデュエットするという訳でもなく、それぞれ1曲を丸ごと担当。その間ニールはお休み。うーん、ちょっとこれは僕にはあんまり有難くない企画だなあ。その3人のそれほどのファンという訳でもないし、皆なんとなくニールの声色に似せて歌ってるような感じだし、破綻もなければ面白みもないって感じ。せっかく僕の好きな「Jealousy」演ってるのに、これはちゃんとニールの声で聴きたかった。ここだけはむしろ映像で見た方が面白いのかもしれないけど。

曲は、デビュー曲「West End Girls」から最新作までバラエティーに富んで、と書きたいところだが、実は結構マニアックな選曲になっている。無名のアルバム曲ばかりというわけでもないが、所謂ヒットパレードではない。17曲中ニューアルバムから6曲も演っている他は、03年に出たベストアルバム「PopArt」の区分で言うと、「Pop」側から2曲、「Art」側から5曲という配分。オーケストラと競演できる曲を選んだ結果こうなったのだろう。

上に写真を載せたジャケット、注意して見る前はただの白黒・グレイの幾何学模様かと思っていたのだが、よく見るとこのコンサートが行われたマーメイド・シアターの写真。ブックレット内側にもこの手のアーティスティックな写真が何枚も使われていて、ちょっとしたデザイン本みたい。

そう、僕がPSBのことを好きなのは、曲が好き(アレンジや歌詞も含めて)っていうのはもちろんだけど、彼らのこういうセンスが実にしっくりくるから。例えば、デビューアルバム「Please」からこの最新作「Concrete」に至るまで(ビデオ作品やリミックス集も含めて)タイトルは全て一単語だとか(この辺、ブログの記事タイトルを全て6文字で揃えるような人にもわかってもらえるかな)、デレク・ジャーマンやブルース・ウィーバーが監督した見事なプロモーション・ビデオとか、こういうジャケットのセンスとか。映像的な美的感覚の乏しい、でも音楽的には優れたミュージシャンって結構いるからね、誰とは言わないけど。

「こういうのもあり」な企画だと思う。最初に書いた、ペット・ショップ・ボーイズ初のライヴ・アルバム!というのとはちょっと違う。でもこのアルバムは、きっと彼らにとっては、時々出すリミックス集とかと同じような、ちょっといつもとは毛色を変えた企画物なんだろう。そう思えば、この生音図鑑のようなPSBは楽しく聴ける。そしてなにより僕にとっては、このアルバムで一番いいと思った曲が、7月2日の記事で大々的に取り上げた「The Sodom And Gomorrah Show」だったのが、なによりの収穫かも。だって、20年も続いてるアーティストの、最新アルバムからの曲が過去の名曲よりも優れてるなんて、そう経験できることじゃないからね。86年に「West End Girls」で彼らがデビューした時、この一見ちゃらんぽらんなユニットが20年ももつなんて誰が予想しただろう。そして、そのグループがまだまだ凄い作品を出してくれる可能性を秘めていることを、心から喜ばしく思う。
posted by . at 19:38| Comment(7) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする