2006年11月10日

メロウ・スクリッティと昔話

White Black Scritti Politti 「White Bread Black Beer」

スクリッティ・ポリッティの「White Bread Black Beer」。記憶力のいい方なら、10月23日の「所有欲の奴隷III 増殖編」でこのCDが我が家に3枚あると書いたのを覚えておられるかも。その最初の1枚がうちに来たのは6月30日。僕がこのブログを立ち上げる前日だった。それからずっと、このCDのことを記事にしようと思いながら4ヶ月以上が過ぎ、そしてその間にあと2枚の同じCDを手に入れることになってしまった。

先月日本に行って驚いたのが、スクリッティ・ポリッティの盛り上げられ方。僕が手に入れただけでも、ミュージック・マガジンとレコード・コレクターズそれぞれの10月号、ストレンジ・デイズの11月号に、グリーン・ガートサイド(=スクリッティ・ポリッティ)のインタビュー記事。ミュージック・マガジンに至っては、36ページにも及ぶ巻頭大特集だ。更にびっくりしたのが、たまたま手に取った週刊文春にもこの新譜(日本盤は9月27日発売)の広告が。そうか、今や文春を読むような層が、スクリッティ・ポリッティの購買対象なんだね。って、自分の歳を考えたらわかりそうなもんだけど。

4ヶ月もの間このCDのことをブログに書かなかったのは、他に書くことが沢山あったのももちろんだけど、何度聴いても、7年振りに突然発売されたこのアルバムについて、未だにうまく言い表せそうにないということもあった。後述するが、アルバム毎にかなり振幅の大きな音楽性を見せる人だから、この非常にメロウでパーソナルな音もそう驚くに値しないのかもしれない。曲によっては、まるで「Smiley Smile」の頃のビーチ・ボーイズのようだ。

悪いアルバムではない。あちこちにグリーン独特のメロディーがちりばめられているし、自分で全てのパートを担当したという演奏も、シンプルながら味わい深いものだ。特にアコースティック・ギターとシンセサイザー類の音の絡みが面白い。それになにより、この声。どれだけ音楽性が変わっても、このグリーンの声が出てくれば大丈夫。でも、80年代に彼らの大ヒットアルバムを買っていた人たちが、文春の広告を見て久しぶりにCD屋に足を運んだとしても、一体この音楽を気に入るのだろうか、といらぬ心配をしてしまう。

うーん、どうも駄目だなあ。言葉を選びながらここまで書いてきたけど、これじゃどう読んでも僕はこのCDをあんまり気に入ってないみたいだよね。そんなことないんだよ、本当に。でもこれは、数回聴いただけですぐにそのよさがわかるようなCDではないと思うし、きっとあの日本での異様な持ち上げられ方に違和感を持ってしまっているんだと思う。

持ち上げたくなる気持ちはすごくよくわかるんだけどね。ミュージック・マガジンの編集長は僕とほぼ同い年だし、メインの読者層のうちかなりの人が(僕と同じく)この特集を見て大喜びしたはずだから。それだけ、スクリッティ・ポリッティは特別なグループだった。よし、このアルバムのことはこれぐらいにして、昔の話を書くことにしよう。

とはいったものの、このグループにはかなりマニアックなファンが沢山いて、例えばデータ的なことなら「モノノフォン」、難解な歌詞を詳しく掘り下げたものなら「The SP Workshop」と、非常にためになるサイトも存在する。僕がここでわずか一記事で中途半端な知識をひけらかすのはちょっと躊躇してしまうので、今日はもう半分自分の思い出話みたいになると思う。


AnoBono
まずは7年前に遡り、「Anomie & Bonhomie」。その前のアルバムから11年振りに発売された、それはもう待望のアルバムだった…はずなのだが、正直言って僕にはそのあまりにもヒップホップに振れた内容がどうも合わなかった。気に入ったのは、出てきた瞬間に背筋のしびれたグリーンの声と、このいかしたジャケに代表される、曲毎に用意されたポップなデザインぐらいのものだった。


Provision
更に11年遡った「Provision」は、世間一般には85年の大ヒットアルバム「Cupid & Psyche 85」の焼き直しのように言われていたような感じもあったが、アルバム全体の出来としては僕はこちらの方が気に入っている。捨て曲なし。彼らのアルバムにはいつもびっくりするようなゲストが参加しているが、そういえばこれにはマイルス・デイヴィスが入ってたんだった。個人的にはそれまで暮らした大阪から初めて東京(実際は川崎)に移り住んで、新しい生活を始めた頃に浸っていたアルバムだから、とても思い出深い。今でもこのアルバムからの曲を聴くと、当時はススキが生い茂っていた新百合ヶ丘駅前の道を思い出す。


Cupid & Psyche 85
その大ヒットアルバムも、もちろん悪いわけがない。ただ、このアルバムは、その前哨戦として出された「Wood Beez」「Absolute」「Hypnotize」という爆弾のような3曲がどうしても核になってしまうので、それ以外の曲がちょっと弱く聴こえてしまうのが残念。それにしても、その3曲に加えて「The Word Girl」と「Perfect Way」も後にシングルカットされたから、わずか9曲入りのLPに5つのシングル曲が入ってることになるんだね。そう考えるとやっぱりこれはとんでもなく凄いアルバムだな。85年、水泳部の合宿に、カセットに落としたこのアルバムを持って行ってずっと聴いていたなあ。


Songs To Remember
82年のファーストアルバム「Songs To Remember」も英ニュー・ウェーヴ名盤として評価が高いけど、85年以降に後追いで聴いた人たちはどう思ったんだろう。85年以降に出てくるハイパー・ポップ/ヒップホップとは遠くかけ離れた素朴な音。このアルバムに先駆けて発表されたシングル「The Sweetest Girl」にキーボードで参加しているのは、ロバート・ワイアット。


Clear Cut
僕が初めてスクリッティ・ポリッティを聴いたのは、81年にラフトレードが日本に初めて紹介されたときに出たオムニバスアルバム「Clear Cut」に入っていた「Skank Bloc Bologna」だった。衝撃的だった。「Songs To Remember」を含め、その後に出てくるどのアルバムとも全く違った音。滅茶苦茶アバンギャルドなのに、妙にポップ。一発でファンになってしまった。ちなみにこの「Clear Cut」、ディス・ヒート唯一の12インチシングル曲や、復活直後のロバート・ワイアットなど、今から思えばとんでもなく凄い選曲だった。こんなものをロックを聴き始めてわずか2年目で耳にしてしまったのが原因で、その後周りの友達の誰とも話の合わない音楽の荒野を進む羽目になってしまった。


Early
さっき「White Bread Black Beer」が7年振りのアルバムと書いたが、実は04年の末にひっそりと発表されたCDがある。それが、この「Skank Bloc Bologna」を始めとした最初期のシングルを編集した「Early」というアルバムだ。まさかこんなものが出るとは。ライナーでグリーン自身も照れ半分・自虐半分に語っているが、今聴くと稚拙な音だ。でも、次から次へと新鮮な音を出すバンドが生まれていた当時でも、こんなにオリジナルな音楽を作り出せる人たちはいなかったと思う。グリーンには申し訳ないけど、個人的には今回の新譜よりもこちらの方を今でも愛聴している。ジャケットもケタ違いに格好いいし。


この最初期からハイパー・ポップを経由して、黒人アーティスト多数参加の「Anomie & Bonhomie」にたどり着いたことを考えると、そこから新作までの変化なんて、僕が最初に書いたほどの問題じゃないのかもしれない。むしろ、昔からのファンが一番驚いた変化は、グリーンの外見だろう。だって、85年当時のこの人が、

Green85


今はこうだもんね。これはインパクト強いよ。

Green06
posted by . at 21:39| Comment(17) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする