2006年11月30日

怒涛の4日間

もう2週間も記事を更新していない。先日コメント欄で依頼されたyascd005をはじめ、書きたいことがないわけでもないのだが、最近ちょっと忙しかったのでつい更新がおろそかになってしまって。先週シンガポールで、そして今週東京で会議が入ったので、わずか10日足らずで計40時間もかけてNZ−アジアを2往復するよりはと、今回はシンガポールから日本に直行した。久しぶりの日本での週末。今回はちょっと自分にあまり制限をかけずに、(あくまでもバーゲン箱を中心に)思う存分CDを掘ってみた。今日は、今回の日本出張で買ったCD・レコードを羅列するだけの、自己満足度満点の記事。久しぶりなのにろくでもない記事でごめんなさい。しかも長いよ(笑)

まず、某ブログ・某記事のコメント欄に書いたのだが、日本に到着していきなり僕を迎えてくれたのが、11月11日の記事に載せたマナティのジャケでおなじみのユマジェッツ(1)と、かえでさんお気に入りのクックー(2)の2枚のCD。僕の出張に合わせてわざわざ彼女が買って送ってくれたものだ。本当にありがとうございました。

Umajets.jpg(1)  Breathing Lessons.jpg(2)

両方とも早速PCに落として聴いてみた。まずはユマジェッツ。冒頭の「When I Wake Up」から泣かせるメロディー連発。ジェリーフィッシュは大好きなバンドだったけれど、あれはロジャー・マニングとアンディ・スターマー(プラス、ジェイソン・フォークナー)、そして地味なバックのリズム隊という役割だとずっと思っていたのに、まさかそこのベーシストが結成したグループがこんなにいいアルバムを作っていたなんて。ほんとにジェリーフィッシュって奥が深いバンドだったねえ。最近の再評価もうなずけようというもの。僕も、かえでさんが入手されたもう一枚のアルバムを探してみることにしよう。

そして、クックー。個人的には今回手に入れた数あるCDの中でも一番の掘り出し物かもしれない。確かに音的には90年代に星の数ほど現れては消えたパワーポップバンドの一つにすぎないかもしれない。「結構いいのに、でも売れない」というのはこの手のバンドの常。天才的に優れた曲を作り続ける才能、レコード会社からの強力なプッシュ、ライヴで鍛えた演奏力、メディアのサポート、ルックス、タイミング、運。それらが全部揃わないとこの手のバンドはまずブレイクしない。そして、このバンドもその中の何かが欠けていたために、アルバム1枚で消えてしまった。でもこのアルバムはかなりいいよ。荒削りだけど勢いのある演奏。ポップな曲調。ときどき入る「ぴーっ」っていうギターのフィードバックもまた味がある。ときどき声がひっくり返る、ちょっと癖のあるボーカルは好みがわかれるかも。あ、ソロの時のこういうまあるい感じのギターの音(うーん、わかるかなあ、あまり高音域が出てなくて中音域が強調された、ちょっとサステインの効いたレスポール系のふくよかな音)、聴いてて気持ちいいね。かえでさん、センスいいよ。猟犬合格(笑)

ここからは自分で店で見つけたものなんだけど、この2枚のお陰で今回はちょっと自分の中でジェリーフィッシュ&クックーモードができあがってしまった。さっき再評価って書いたけど、いろんな若いバンドがジェリーフィッシュに賛辞を送っているのと同時に、ロジャー・マニングがかなり活発に活動を始めた模様。しばらく前に出た彼のソロ・アルバム(3)と、もう面子的にはほぼジェリーフィッシュ再結成と言っていいようなTVアイズ(4)のそれぞれ紙ジャケを運よく中古で見つけることができたので、入手。

Solid State Warrior.jpg(3)  TV Eyes.jpg(4)


アルバム1枚で消えてしまったバンドのその後を調べたくなるのはマニアの常(笑)。クックーのメンバーがどうなってしまったかを調べていくうちに、中心人物のアンドリュー・フェリスとベースのジェイミー・バーチェルがその後ジェットプレーン・ランディングというバンドを結成していたことが判明。そしてなんと、今回そのバンドのCD2枚をかなりな安値で手に入れることができた。偶然の神様、今回も健在(笑)。しかも、ファーストアルバム(5)はEPとして出た4曲をボーナストラックにした日本盤。ここに載せたジャケ写は海外で流通しているものだけど、僕の買った日本盤はどういう訳か全体がきみどり色。きみどり色の方がいいと思う。多分今は既に廃盤になっているセカンド(6)と両方聴いてみたが、一度聴いた限りではファーストの方がいいかな。

Zero For Conduct.jpg(5)  Once Like A Spark.gif(6)


その2バンドだけでなく、振り返ってみるとやっぱり今回は僕自身がパワーポップモードになってたんだろうね。買ったものをリストアップしてみると、僕の家に1枚だけある、既に消えてしまったパワーポップバンドのセカンドアルバムとか日本編集盤とかをやたらと買っていたことに気づく。そう、この手のバンドって日本では結構受けるから、現地のシングルやEPを集めた日本編集盤が結構存在するんだよね。僕がyascd002で提示したような幅広いくくりのパワーポップっていうことで言うと、えーと、7枚か。ラズベリーズの最初の2枚のアルバムをカップリングしたライノ編集盤(7)、今回自分で買った中では最安値に近い(220円)ミジェットの日本編集盤(8)、喰い犯で取り上げられていたグラス・ショウのこれも日本編集盤(9)、ポウジーズのケン・ストリングフェロウの2枚目のソロアルバム(10)、実は既に持ってるんだけど日本盤ボーナストラック入りで250円だったサマーキャンプ(11)、北欧ポップ(その1)メリーメイカーズのこれまた日本編集盤(12)、北欧ポップ(その2)トランポリンズのセカンド(13)。この手の消えてしまったパワーポップバンドのCDって、日本では中途半端に沢山流通してただけに異様に安いんだよね。今まで中古屋で見かけてもスルーしてたんだけど、今回自分がパワーポップモードに入ってるうちに全部入手しておいた。

Respberries.jpg(7)  Midget.gif(8)  Vertigo.jpg(9)
Touched.jpg(10) Pure Juice.gif(11) Andrew's Store.gif(12)
The Trampolines.jpg(13)


マイブームといえば、元エニー・トラブル(yascd002参照)のクライヴ・グレッグソン。僕はエニー・トラブルのCDはファーストとベストアルバムしか持ってないんだけど、今回はあちこちの中古屋で彼らのラストアルバム(14)、それからクライヴのソロ作2枚(15)(16)、グレッグソン&コリスターのアルバム(17)と、今は廃盤でなかなか見かけないのを4枚も一気に見つけたので全部買っておいた。廃盤といっても巷で大人気のアーティストってわけでもないからそれほど高くはないんだけど、なにしろ絶対的な流通量が少ないんで一旦見逃すとなかなか出てこないんだよね。あ、でもこれだけあちこちで放出されてるってことは、もしかしたら近いうちに紙ジャケか何かで再発されるのかな?別に紙ジャケで欲しいようなアーティストじゃないからいいんだけどね。

Wrong End Of The Race.jpg(14) I Love This Town.bmp(15)
Comfort & Joy.jpg(16) Gregson Collister.jpg(17)


イギリスのニュー・ウェーヴ系も沢山買ったな。CDでは持っていなかったジョー・ジャクソンのサードアルバム(18)、マガジンのラストアルバム(19)、フライング・リザーズ(20)、ア・サートゥン・レイシオの1980年オランダでのライヴ盤(21)、テレビジョン・パーソナリティーズの、えーとこれは何枚目だっけ、わりと初期のアルバム(22)、ライドのファースト(23)、ワンダー・スタッフのシングル集(24)、おまけにスクリッティ・ポリッティの僕が唯一持っていなかったシングル(25)、それから、XTCのボックスセット(26)。あーあ、封印してたボックスセット、買ってしまったよ。だって安かったんだもん(通常8000円近辺のところを3790円)。安かった理由は、CDの盤面が少し黴っぽかったことと、ブックレットの糊付け部分がはがれてしまっていたこと。黴取り用のCDクリーナーは買ったし、ブックレットは著名な接着師に切継いちばんで接着の実演をしてもらったので問題なし(笑)

Beat Crazy.jpg(18) The Correct Use Of Soap.jpg(19) Flying Lizards.bmp(20)
Groningen.gif(21) The Painted Word.jpg(22) Nowhere.jpg(23)
Wonder Stuff Singles.jpg(24) Take Me In Your Arms.jpg(25) Coat Of Many Cupboards.jpg(26)


フォーク/トラッド系も何枚か。まず前回の記事でfalsoさんに薦めていただいたバート・ヤンシュのオーストラリアでのライヴ盤(27)、ヴァシュティ・バニヤンのファースト(28)、ニック・ジョーンズの(多分)唯一のアルバム(29)、紙ジャケでランバート&ナティカムのセカンド(30)とクレイグ・ナティカムのソロアルバム(31)。

Downunder.jpg(27) Vashti.jpg(28) Penguin Eggs.jpg(29)
As You Will.jpg(30) It's Just A Lifetime.jpg(31)


プログレ/カンタベリー系もあるよ。ソフト・マシーンの「7」(32)と、イングランドの紙ジャケ(33)。「7」は紙ジャケも中古で出てたけど、このいい加減なデザインのジャケをわざわざ高い金出して紙ジャケ揃える必要もないんで(笑)

Seven.jpg(32) Garden Shed.jpg(33)


レゲエ/ダブもあるよ。リントン・クゥエシ・ジョンソンの最初のライヴ盤(34)と、マトゥンビのベスト盤(35)。本当はマトゥンビはジャケが格好いいオリジナルアルバムが欲しいんだけどな。早く再発してくれないかな。

LKJ.jpg(34) Empire Road.jpg(35)


トッド・ラングレン関連も気づいてみたら3枚も。名作ライヴ盤「Back To The Bars」のアウトテイク集(36)、トッドがプロデュースした曲をコンパイルしたライノ編集盤(37)、そして、予想通り在庫過剰になってきたため安値で放出され始めたニュー・カーズ(38)。最後のは僕が1500円で買ったすぐ翌日に1300円ぐらいで出てるのを見つけて悔しい思いをしたんだよな。やっぱりこんな、カーズのファンからは馬鹿にされ、トッドのファンは呆れてしまうような企画、最初から無理があるんだよ。以上、過去の栄光を食い物にするトッド三点盛りでした(笑)

Another Side Of Roxy.jpg(36) An Elpee's Worth Of Productions.jpg(37) It's Alive.jpg(38)


ああ、マイブームといえばこれもあった。ジェイソン・ムラーズ。実はこの人のことあまりよく知らなくて、よくあるアイドル系の人かと思っていたんだけど、ふとしたきっかけで「You And I Both」を聴いてからどっぷりはまってしまった。その曲が感動的に演奏されるライヴ盤(39)と、セカンドアルバム(40)を買った。ライヴ盤は1470円で買ったんだけど、これも後日数百円で見かけて唇を噛んだものだ(こんなのばっかり)。

JM Live.jpg(39) Mr. A-Z.jpg(40)


あとは、今選曲中のyascd005に何か入れられるかも、と思って買ったホール&オーツのクリスマスアルバム(41)、流通量が少ないため今まで意外と見つけるのが難しかった元アラームのデイヴ・シャープの僕の持ってない方のソロアルバム(42)、yascd005の選曲中に10年ぶりにはまってしまったハンソンのライヴ盤(43)、こんなの出てるの知らなかったジョン・メデスキ&ロバート・ランドルフ&ノース・ミシシッピ・オールスターズによる「The Word」というアルバム(44)、ブラジル音響系アルゼンチンの環境系ファナ・モリーナ(45)、今回唯一のジャケ買い、ビッグ・サー(46)、今回唯一のLP、スクイーズのライヴ盤(47)。最後のはもちろんCDで持ってるんだけど、これはファーストアルバム以前のEPがおまけで付いた限定盤。そのおまけEPもジャケ違いをかつて持ってたんだけど、例によって紛失してしまったから。これで1500円は安いよね。

Home For Christmas.jpg(41) Hard Travelling.jpg(42) Live From Albertane.jpg(43)
The Word.jpg(44) Segundo.jpg(45) Big Sur.jpg(46)
A Round And A Bout.jpg(47)


これまで書いたものは全て中古ないしは新古(定価の2−3割引)で購入。それ以外に、最近出たばかりでまだ中古では見つけられなかったんだけど、どうしても今回買って帰りたかったものが3枚。ダミアン・ライスの新譜(48)、バッドリー・ドローン・ボーイの日本盤ボートラ入り(49)、ペット・ショップ・ボーイズ初のライヴアルバム(50)。どれもまだ聴いてないけど、全て僕の今年のベスト10に入る予感大。

9.jpg(48) Born In The U.K..jpg(49) Concrete.jpg(50)



さて、冒頭に書いたように、僕の音楽の趣味をわかってくれて、親切にも僕が探していたCDを見つけて送ってくれるほどのかえでさんをもってしても、僕が何故この界隈で(特にLunaさんやひそそかさんに)子ども扱いされているかの真の意味を把握していなかったようだ。そう、僕には社交辞令という言葉は通用しないのですよ(笑)。マナティジャケのユマジェッツがいまだに新譜で残っていたという考古学的情報に釣られて、半日空いた時間を利用してはるばるS県某市へと出向いた。おそらくこのブログ界隈で誰もが一度は会ってみたいと思っているであろう憧れのかえでさんを運転手としてこき使い、付近のめぼしいCD屋を全て制覇した。ええ、呪われるのはもちろん覚悟の上ですとも。

実は上に挙げたものの中にもその時に買ったものはあるのだが、やはり特筆すべきは破格値でシールド状態の廃盤が手に入ったことだろうか。その中でも一番の掘り出し物は、この「Magic Christian Music」のパロディージャケも愛しい、バッド・フィンガーのトリビュートアルバム(51)だろう。低予算のせいか超一流アーティストは参加していないのだが、僕の心の琴線に触れる二流(?)アーティストが揃い踏み。ナック!コットン・メイザー!クリス・フォン・スナイダーン!しかもこれがたったの800円!これを手にしたとき、妄想の中でハイチュウが増えていくあねこちゃんの気持ちがありありとわかりました。きっとかえでさんは、手を口に当てて地団駄を踏まんばかりの僕を見て、あっけにとられていたことだろう。

その他、現地で200円〜750円で入手したCDの数々。なんでこんなものがあるの?って感じのジョン・グリーヴス「The Caretaker」(52)、実は大山鳴動してシングル盤を2枚も買った「メアリーの子羊」がボートラとしてCD化されていると判明したウイングスの「Wild Life」(53)、初代ビューティフル・サウス女性ボーカル、ブリアナ・コリガン唯一のソロアルバム(54)、ライアン・アダムス在籍ウィスキータウン(55)、かえでさんは100円で買ったのに僕はその倍の200円も払う羽目になってしまったグレン・フライ(56)。いやー、満喫した。短い時間でしたが、本当に楽しかったです。かえでさん、改めて、ありがとうございました。

Come And Get It.jpg(51) The Caretaker.jpg(52) Wild Life.gif(53)
When My Arms Wrap You Round.jpg(54) Pneumonia.jpg(55) Strange Weather.jpg(56)


以上、全56枚。合計金額62,565円。ボックスセットを含んでいるのに、目標の一枚あたり1200円以下という基準をクリアしているのは上出来だ。でも、家にまだ買って聴いていないCDが何枚もあるのにな。一日2枚ずつ聴いたとしても今回買った分だけで1ヶ月かかるのか。XTCのボックスは4枚組だし。これは全部聴き終えるのはもう来年だな。

こうして今年最後の日本出張(ええ、出張ですからね)が終わった。まさに怒涛の4日間だった。


<12月13日 追記>

(5)の、僕が持っているきみどり色のジャケ写を見つけた。ついでに、青いのも見つけた。なんでこんなに色とりどりなの?熱狂的なファンが全色買うとでも思ってるのか?

Jetplane グリン Jetplane 青



posted by . at 15:52| Comment(29) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月17日

正統派アメリカンSSWの系譜 Josh Ritter 「The Animal Years」

音楽のように保存性の強い分野にとって、同時性というのはあまり重要でないと思われるかもしれないけど、それでも自分が好きになったアーティストと同時代を過ごせるかどうかということは結構重要な意味を持つ。例えば僕の世代だと、ビートルズの名盤の数々がどんなに素晴らしいかということはわかるけれども、それは初期の瑞々しくやんちゃな曲でシーンに飛び出してきた彼らがほんの数年で「Sgt. Peppers」のようなアルバムを生み出し、あっという間に「Abbey Road」まで行き着いてしまったことを目撃することとは全く違う体験だと思う。演劇を録画したビデオを観るようなものといえばいいのかな。

アメリカのシンガーソングライターでいうと、僕はかろうじてブルース・スプリングスティーンの「The River」を発売時に聴くことができたが、「Born To Run」には間に合わなかった。名前はずっと前から知っていたウォーレン・ジヴォンをちゃんと聴き始めたのは、彼が最後の闘病生活に入ってからだった。ボブ・ディランのいわゆる名盤の大半は、僕が物心つく前に世に出てしまっていた。

Animal Years.jpg Josh Ritter 「The Animal Years」

今日はジョシュ・リターの「The Animal Years」というアルバムのことを書く。例によって日本盤の表記は「リッター」だけど、こないだのスクリッティ・ポリッティと違って今度こそは「ッ」なしが本来の発音に近いと思うんで、これで通すよ。今年の3月に出たアルバムなので(日本盤は4月)、この印象的なジャケットはもう何度もあちこちで目にしていたし、萩原健太さんのサイトなど信頼の置ける筋での評判が高かったのも知っていた。でも、特にこれといった理由もなく後回しにして買っていなかった。手に入れたのはつい最近。

…危うくこんなすごいアルバムに出会い損ねるところだった。たかだか数百円をケチって中古を待ってしまったがためにこれを何年後かに旧譜になってから後追い体験することを想像すると、ぞっとしてしまう。ああよかった。もっとこれからは自分の勘を信じて、こんないまにも泣きそうな表情のかわいい馬がレコ屋で呼んでるときには素直に従おう(笑)

ギターとボーカルのジョシュに加えて、(ブックレットに載ってる順に)キーボード、弦楽器あれこれ(ベース、ギター、マンドリン、ウクレレ、ラップスティール)、ドラム、ギター、パーカッションの5人が演奏を務めている。演奏はきわめてオーソドックスと言っていいだろう。

アルバムはひっそりとしたキーボードとアコースティックギターの音で幕を開ける(こないだ紹介したレイ・ラモンターニュの新譜のオープニングとそっくり!)。少しずついろいろな楽器が重なって緩やかに盛り上げていくところが、この後に続く曲に期待を持たせる。

続く「Wolves」は印象的なピアノのイントロに乗って、ちょっとブルース・スプリングスティーンかウォーレン・ジヴォンが書きそうな感じのメロディーが歌われる。これがこのアルバムのベストトラックという訳ではないけれど、先ほどの「Girl In The War」からこの曲への流れは、僕が勝手に提唱している「A面2曲目がいいアルバムに駄作なし」というルールに当てはまっているね。ちなみに、アルバムタイトルの具体的な意味はよくわからないのだが、この曲を筆頭に「狼」という単語がこのアルバム中あちこちでキーワードのように使われている。

今度はまるでジャクソン・ブラウンのような節回しの「Monster Ballads」。この曲は音の作り方が好き。控えめな音で同じリズムをキープしているベースとドラムと冒頭から長音で鳴り続けているオルガンの音に添えて、右チャネルにまるで遠くで弾いているかのようにピアノの音がポロン、ポロンと入っているのだが、サビから間奏の部分では今度はピアノが前に出てきて、逆にオルガンが効果音的に後ろに廻るところが面白い。でも、こんなに気を使った音作りをしているのに、高音がちょっと割れ気味なのは何故だろう。もったいない。それともこれは僕の買ったオーストラリア盤だけかな。

「Lillian, Egypt」はジョン・ハイアットが書いてもおかしくないような曲。それにEストリートバンドのロイ・ビタンばりのピアノがソロを取るんだから、これはたまらない。シングルカットされたこの曲のプロモーションビデオを観たのだが、あれ?アルバムバージョンとミックスがかなり違うぞ。跳ねるピアノに加えて、印象的なギターのリフが入ってる。うーん、これはシングル盤も欲しくなってしまったな。まだアマゾンで売ってるみたいだから、無くならないうちに買おうかな。日本盤にボーナストラックとして入ってる曲もそれで入手できるし。

このアルバム中で一番異色な「Idaho」が次の曲。ごく控えめにギターの音が入っているのだが、殆どアカペラで歌っているように聴こえる。LPで言うとA面終盤近く。いいアクセントになってるね。自分の生まれ故郷のアイダホへの郷愁を唄っている。アイダホってジャガイモの産地だってことしか知らないけど、狼が多いのかな。これにはこんな歌詞が出てくる。

  狼よ、わからないのかい?
  どんな狼も僕のようには唄えない
  もしそんな風に唄える狼がいたとしたら
  そいつはアイダホ生まれだと思う

うーん、この曲に限らないけど、この人の書く詞はちょっと読んだり聞いたりしただけでは意味がつかめないものが多いみたい。

「In The Dark」はソロになった頃のニール・ヤングみたいな感じかな。LPだとこの曲がA面の最後になるはず。次に期待させるいいクローザーだね。で、B面1曲目に当たるはずの「One More Mouth」も前曲をもう少しおごそかにした雰囲気。これもなんとなくニール・ヤング風?これはどんなエフェクターを使ってるんだろう。リヴァーヴがかかったようなギター類の音が気持ちいい。

「Good Man」はボブ・ディラン風のメロディ。あれ?そういえばコーラスがかぶってくる曲はここまででこれが最初か?途中でボーカルがダブルトラックにもなるし。さっきの「Lillian, Egypt」と並んでこのアルバム中では明るめの曲調。

スプリングスティーンのアコースティックアルバムに入っていてもおかしくないような「Best For The Best」に続いて静かに始まる「Thin Blue Flame」が、このアルバムのクライマックス。薪に火がついていくように徐々に盛り上がり、途中ボレロ風になったり静かな間奏が入ったりする9分半にも亘る非常にドラマチックな曲に、これもまた難解な、かなりの量の歌詞が吐き出されるように歌われる。スプリングスティーンの「The River」での「Drive All Night」の役割を持った曲(僕はなんでも「The River」に例えてそのアルバムを持っていない人に訳のわからない思いをさせているけど、あれは持ってて損のないアルバムだから、訳わからんと思っている人はこの機会に買ってください。はいここクリック・笑)。

「The River」つながりでいうと「Wreck On The Highway」にあたるのが、このアルバム最終曲「Here At The Right Time」。ピアノだけをバックに、達観したような歌が淡々と歌われるところが似ているかな(「Wreck〜」はピアノだけじゃないけど)。

今回あえていろんなアーティストの名前を使って説明したんだけど、普通は「○○に似ている」なんて書くと、オリジナリティーのないパクリみたいなネガティブな印象を与えてしまう可能性があるよね。でも、誰もがさっき僕が名前を挙げたような人たちが書いたようなクオリティーの曲を書けるわけじゃない。僕は、僕よりずっと年上であるその人たちのキャリアには途中参加しかできなかった。今、おそらく自分より年下であろう新しい才能のキャリアの端緒に出会えたことを喜びたい。

とは言ったものの、これは別に彼の最初のアルバムという訳ではない。ライヴミニアルバムを含めれば既にこれ以前に3枚のアルバムを出している。でも例えば僕がウォーレン・ジヴォンをきちんと聴き始めようと思ったときに10枚以上の旧譜を遡らなければならなかったことを考えると、たったの3枚でこの人の音源の全てを網羅できるのは嬉しい。もう既にセカンドアルバムがアマゾンから数日前に届いた。一度だけ聴いてみたが、これも中々の出来だ。

Golden Age.jpg Josh Ritter 「Golden Age Of Radio」

あ、ちなみにこのセカンドアルバム「Golden Age Of Radio」、アマゾンのサイトにはボーナスディスク付と表示してあるのだが、届いたCDは一枚もの。クレーム入れたら「ボーナスディスク付はもう品切れなので1ドル返します」だと。うーん、手間と金かけて返品するのも面倒だし、なんか釈然としないけど、しょうがないか。そのうちボーナスディスク付をどこかで安く見つけよう。偶然の神様はこれを読んでるはずだから。
posted by . at 23:41| Comment(17) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月11日

「安かってん自慢」返し

今日は別の記事を書こうと準備してたんだけど、先日の某ブログでの優越感たっぷりの大人買い記事(あくまでも小規模な大人買い・笑)を読んで悔しい思いを引きずっていた僕がちょっとした憂さ晴らしをできる出来事があったので、そのことを書こう。

毎週のように通っているレコ屋に、普段はスルーしているCDシングル叩き売りコーナーがある。スルーしてたのは、いつも限られた時間内で広い店内をくまなくチェックしないといけないので、外れの可能性の大きい旧譜CDシングルはどうしても後回しにせざるを得なかったから。でも今日は、たまたま別件で探していたCDシングルがあり、ふとその箱を覗いてみた(箱といっても幅5メートルはある結構な量)。そしたら、これが中々の掘り出し物の宝庫。しかも、1枚1ドル(約80円)均一! よし、これなら勝てる! シングル盤なのはちょっと弱いが、100円均一に勝てる機会はこれを置いてそうそう巡ってくるわけではないだろう。今日はここを掘ろう。

掘って来ました。指先をホコリで真っ黒にして。枚数はちょっと控えめに9枚だけ(それ以外に5枚買ったので、今日の合計は14枚。先週末と併せて32枚も買ってるなあ。馬鹿か…)。

簡単に、買ったものリスト。まずは憎き「安かってん自慢」ブログで取り上げられていたのを見て急に聴きたくなったシーホーセズを2枚。これ、アルバムはあちこちで叩き売られてるけど、シングル盤はあまり見かけないからね。まあ、だからといって特別に価値があるわけじゃないけど(笑)。カップリングのそれぞれ2曲はアルバム未収録。とはいっても、アルバム持ってないからあんまり意味ないんだけど。あ、でもなかなか格好いいね。
Love Is The Law.jpg Blinded By The Sun.jpg


続いて、yascd002に入れた、コットン・メイザーの99年と01年のシングル。こんなものがあるとは… これはちょっと個人的には今回一番の掘り出し物かも。この01年の「40 Watt Solution」なんて、ネット上で写真さえ見つからないよ。あ、この「Password」のカップリング曲はスタジオライヴか。メドレーで演ってるぞ。ギターのカッティングがいかすね。それになにより、このロバート・ハリスンの声。最高だね。
Password.jpg 40 Watt Solution.JPG


同じくyascd002に入れた、ジン・ブラッサムズの「Follow You Down」も見つけた。カップリング曲も含めてもう持ってるんだけど、この人たちのCD見つけたら応援したくてつい買ってしまうんだよ。まあ、1ドルしか払ってないんだけど。
Follow You Down.jpg


ジェイソン・フォークナーのEPも見つけた。これは5曲も入ってるぞ。1曲あたり16円か。うん、これは安い(笑)。あ、安いだけじゃないぞ。曲もかなりいい。これは買って正解。なんだかジャケはダサいけど。
Jason.jpg


アズテック・カメラの「Sun」があった。これはカップリング3曲のライヴ、それも名曲「We Could Send Letters」を目当てに買ったんだよ。へえ、7分も演ってるよ。おお、ギター弾きまくり。かっこいい!
Sun.jpg


中身の音源は持ってるんだけど、貴重なプロモ盤を見つけたので買ったのがエルヴィス・コステロとスティーヴ・ナイーヴのライヴ盤。これオリジナルの箱入り5枚組は持ってるけど、このジャケのは見たことなかった。僕の買ったシカゴでのライヴ盤はネットで写真見つけられなかったから、たまたま見つけたこのニューヨークのを載せとくね。これは紫だけど、シカゴのは黄色ジャケ。あ、でもベタベタ値札貼ってあるから、ジャケが結構ぼろくなってるなあ。うーん、ちょっと残念。
Costello Nieve.jpg


最後に1枚。ユマジェッツのシングルなんてのを見つけた。さわやかギターポップ。このジャケはどうでもいいんだけど、本当はアルバムを見つけて買いたいんだよなあ。マナティー好きの僕の魂を揺さぶる素晴らしいジャケ。あっという間に廃盤になったこれを買っておかなかったのは、痛恨の極みだった。このブログは、僕が持ってないCDやレコードのジャケットの写真は載せないルールなんだけど、これだけは特例で載せてしまおう。近いうちに探し出して買うという意思表示として。
When I Wake Up.jpg Umajets.jpg ←これこれ


以上9枚。もう少し時間に余裕があれば、名前は知らないけどジャケ買いしたいと思えるやつも何枚かあったんだけどな。まあいいや、またどうせ来週も行くから。

でも、安かってん自慢返しなんて言っても、どうせあのかえでさんのことだから「シングル盤なんて反則。呪いますよ」とか言うんだろうな…
posted by . at 23:08| Comment(8) | TrackBack(1) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月10日

メロウ・スクリッティと昔話

White Black Scritti Politti 「White Bread Black Beer」

スクリッティ・ポリッティの「White Bread Black Beer」。記憶力のいい方なら、10月23日の「所有欲の奴隷III 増殖編」でこのCDが我が家に3枚あると書いたのを覚えておられるかも。その最初の1枚がうちに来たのは6月30日。僕がこのブログを立ち上げる前日だった。それからずっと、このCDのことを記事にしようと思いながら4ヶ月以上が過ぎ、そしてその間にあと2枚の同じCDを手に入れることになってしまった。

先月日本に行って驚いたのが、スクリッティ・ポリッティの盛り上げられ方。僕が手に入れただけでも、ミュージック・マガジンとレコード・コレクターズそれぞれの10月号、ストレンジ・デイズの11月号に、グリーン・ガートサイド(=スクリッティ・ポリッティ)のインタビュー記事。ミュージック・マガジンに至っては、36ページにも及ぶ巻頭大特集だ。更にびっくりしたのが、たまたま手に取った週刊文春にもこの新譜(日本盤は9月27日発売)の広告が。そうか、今や文春を読むような層が、スクリッティ・ポリッティの購買対象なんだね。って、自分の歳を考えたらわかりそうなもんだけど。

4ヶ月もの間このCDのことをブログに書かなかったのは、他に書くことが沢山あったのももちろんだけど、何度聴いても、7年振りに突然発売されたこのアルバムについて、未だにうまく言い表せそうにないということもあった。後述するが、アルバム毎にかなり振幅の大きな音楽性を見せる人だから、この非常にメロウでパーソナルな音もそう驚くに値しないのかもしれない。曲によっては、まるで「Smiley Smile」の頃のビーチ・ボーイズのようだ。

悪いアルバムではない。あちこちにグリーン独特のメロディーがちりばめられているし、自分で全てのパートを担当したという演奏も、シンプルながら味わい深いものだ。特にアコースティック・ギターとシンセサイザー類の音の絡みが面白い。それになにより、この声。どれだけ音楽性が変わっても、このグリーンの声が出てくれば大丈夫。でも、80年代に彼らの大ヒットアルバムを買っていた人たちが、文春の広告を見て久しぶりにCD屋に足を運んだとしても、一体この音楽を気に入るのだろうか、といらぬ心配をしてしまう。

うーん、どうも駄目だなあ。言葉を選びながらここまで書いてきたけど、これじゃどう読んでも僕はこのCDをあんまり気に入ってないみたいだよね。そんなことないんだよ、本当に。でもこれは、数回聴いただけですぐにそのよさがわかるようなCDではないと思うし、きっとあの日本での異様な持ち上げられ方に違和感を持ってしまっているんだと思う。

持ち上げたくなる気持ちはすごくよくわかるんだけどね。ミュージック・マガジンの編集長は僕とほぼ同い年だし、メインの読者層のうちかなりの人が(僕と同じく)この特集を見て大喜びしたはずだから。それだけ、スクリッティ・ポリッティは特別なグループだった。よし、このアルバムのことはこれぐらいにして、昔の話を書くことにしよう。

とはいったものの、このグループにはかなりマニアックなファンが沢山いて、例えばデータ的なことなら「モノノフォン」、難解な歌詞を詳しく掘り下げたものなら「The SP Workshop」と、非常にためになるサイトも存在する。僕がここでわずか一記事で中途半端な知識をひけらかすのはちょっと躊躇してしまうので、今日はもう半分自分の思い出話みたいになると思う。


AnoBono
まずは7年前に遡り、「Anomie & Bonhomie」。その前のアルバムから11年振りに発売された、それはもう待望のアルバムだった…はずなのだが、正直言って僕にはそのあまりにもヒップホップに振れた内容がどうも合わなかった。気に入ったのは、出てきた瞬間に背筋のしびれたグリーンの声と、このいかしたジャケに代表される、曲毎に用意されたポップなデザインぐらいのものだった。


Provision
更に11年遡った「Provision」は、世間一般には85年の大ヒットアルバム「Cupid & Psyche 85」の焼き直しのように言われていたような感じもあったが、アルバム全体の出来としては僕はこちらの方が気に入っている。捨て曲なし。彼らのアルバムにはいつもびっくりするようなゲストが参加しているが、そういえばこれにはマイルス・デイヴィスが入ってたんだった。個人的にはそれまで暮らした大阪から初めて東京(実際は川崎)に移り住んで、新しい生活を始めた頃に浸っていたアルバムだから、とても思い出深い。今でもこのアルバムからの曲を聴くと、当時はススキが生い茂っていた新百合ヶ丘駅前の道を思い出す。


Cupid & Psyche 85
その大ヒットアルバムも、もちろん悪いわけがない。ただ、このアルバムは、その前哨戦として出された「Wood Beez」「Absolute」「Hypnotize」という爆弾のような3曲がどうしても核になってしまうので、それ以外の曲がちょっと弱く聴こえてしまうのが残念。それにしても、その3曲に加えて「The Word Girl」と「Perfect Way」も後にシングルカットされたから、わずか9曲入りのLPに5つのシングル曲が入ってることになるんだね。そう考えるとやっぱりこれはとんでもなく凄いアルバムだな。85年、水泳部の合宿に、カセットに落としたこのアルバムを持って行ってずっと聴いていたなあ。


Songs To Remember
82年のファーストアルバム「Songs To Remember」も英ニュー・ウェーヴ名盤として評価が高いけど、85年以降に後追いで聴いた人たちはどう思ったんだろう。85年以降に出てくるハイパー・ポップ/ヒップホップとは遠くかけ離れた素朴な音。このアルバムに先駆けて発表されたシングル「The Sweetest Girl」にキーボードで参加しているのは、ロバート・ワイアット。


Clear Cut
僕が初めてスクリッティ・ポリッティを聴いたのは、81年にラフトレードが日本に初めて紹介されたときに出たオムニバスアルバム「Clear Cut」に入っていた「Skank Bloc Bologna」だった。衝撃的だった。「Songs To Remember」を含め、その後に出てくるどのアルバムとも全く違った音。滅茶苦茶アバンギャルドなのに、妙にポップ。一発でファンになってしまった。ちなみにこの「Clear Cut」、ディス・ヒート唯一の12インチシングル曲や、復活直後のロバート・ワイアットなど、今から思えばとんでもなく凄い選曲だった。こんなものをロックを聴き始めてわずか2年目で耳にしてしまったのが原因で、その後周りの友達の誰とも話の合わない音楽の荒野を進む羽目になってしまった。


Early
さっき「White Bread Black Beer」が7年振りのアルバムと書いたが、実は04年の末にひっそりと発表されたCDがある。それが、この「Skank Bloc Bologna」を始めとした最初期のシングルを編集した「Early」というアルバムだ。まさかこんなものが出るとは。ライナーでグリーン自身も照れ半分・自虐半分に語っているが、今聴くと稚拙な音だ。でも、次から次へと新鮮な音を出すバンドが生まれていた当時でも、こんなにオリジナルな音楽を作り出せる人たちはいなかったと思う。グリーンには申し訳ないけど、個人的には今回の新譜よりもこちらの方を今でも愛聴している。ジャケットもケタ違いに格好いいし。


この最初期からハイパー・ポップを経由して、黒人アーティスト多数参加の「Anomie & Bonhomie」にたどり着いたことを考えると、そこから新作までの変化なんて、僕が最初に書いたほどの問題じゃないのかもしれない。むしろ、昔からのファンが一番驚いた変化は、グリーンの外見だろう。だって、85年当時のこの人が、

Green85


今はこうだもんね。これはインパクト強いよ。

Green06
posted by . at 21:39| Comment(17) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月04日

二つ目小僧にも捧ぐ

Roger Watersロジャー・ウォーターズが来る。2007年1月29日、ノース・ハーバー・スタジアム。オークランドで一、二を争う規模の、数万人収容の会場。チケット発売は11月3日、つまり昨日。最初にこの話を知った数週間前には、なんとしてでもいい席を押さえようと張り切っていたのだが、実はまだ今日になってもチケットを取っていない。その理由の一つは、チケットの値段。席によって、プラチナム、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの五段階に分かれており、プラチナム・シートはなんとNZ$399、日本円にして3万円強。一番下の鉄シートでさえ、8千円だ。いかに彼の音楽の主要観客層が40〜50代とはいえ、かなり強気の値段設定だ。それはさておき、僕を躊躇させる要素が他にもある。

今回のワールドツアーの目玉は、上に載せたツアーポスターにもあるように、彼のソロ・ツアーとしては初めて「The Dark Side Of The Moon」を全曲通して演奏するというもの。古くからのピンク・フロイドのファンにとっては感慨深いものがあるんだろうけど、僕にとっては実はそれが最大の躊躇要因でもある。

コンサートに行って何が楽しいかって、「次にどの曲を演るんだろう」、「あ、この曲をこんなアレンジで演るんだ」っていう期待・驚きがあると思う。まさに、先日通ったグレン・ティルブルックのライヴのように、毎日違った演奏曲目で、時には観客からのリクエストに応えながら、っていうのが理想的。それを、いかに名作とはいえ、1時間弱に亘ってかのアルバムをぶっ通しで、しかもレコードのアレンジそのままに演奏されるのは、僕にはなんだかつまらないと思えてしまう。さらに、2000年に出た彼のライヴアルバムを参考にするまでもなく、おそらくその「The Dark Side Of The Moon」全曲の他には、「Wish You Were Here」「Crazy Diamond」「Comfortably Numb」「Another Brick In The Wall」などは必ず演るだろうから、極端な話をすると、今回のコンサートは、そのライヴアルバム「In The Flesh」の曲順を入れ替えたような演奏曲目になるのは目に見えている。

予定調和、っていうのかな。なんだか3万円も払って、最初から最後まで展開が見えているショーを観に行くことに、自分でもびっくりするほど気持ちが萎えてしまっている。もう何年も前からあんなに観たかった彼のライヴなのに。かといって、8千円も払って、数百メートル先から虫を観察するような席には座りたくないし。

そんなわけで、きっと今日もプラチナムシートは前の方からどんどん埋まっていってるんだろうけど、僕は未だに「行こうかな、やめようかな」を繰り返している。きっと誰かが「もう、ろくな席残ってませんよ」って言ってくれるのを待ってるんだろう。


さて、実はこの「The Dark Side Of The Moon」全曲演奏というのは目新しい話でもなく、まずものすごく古い話をすると、1972年にかのアルバムが発表される前のツアーで演奏され始めたのが最初。僕はブートレグを買い漁るほどのピンク・フロイド・ファンではないのでその辺りは文字情報でしか知らないのだが、誰も聴いたことのないあの壮大な組曲が目の前で展開されるなんて、想像しただけで戦慄が走る代物だったと思う。

そして、時代はずっと新しくなり、ピンク・フロイドが事実上最後のツアーを行った1994年に、数回のコンサートでまたこのアルバムを全曲通しで演奏している。その時の模様を収録したのが翌95年に出たライヴアルバム「p.u.l.s.e」であり、同タイトルのライヴビデオだった。

Pulse CD

ちなみに僕が持っている初回盤のCDは、「鼓動」というそのタイトルに相応しく、CDの入った豪華な箱の側面に付いている赤いランプがずっと点滅し続けるという愉快な仕様。この写真でわかるかな?

点滅

これがどういう仕組みになっているかというと、この外箱の中に厚紙製の電池ホルダーが入っており、そこに単三電池x2を入れると、ホルダーに付随した赤ランプが点滅するというわけ。これが分解したところ。

展開図

僕のブログをいつも読んでくださっている方のうち少なくとも一人、こういう組み立てものに目がない人がいるはずなんだけど、あえて名前は出しません。でも僕にはわかります、これ欲しいでしょ(笑)

さっき「事実上最後のツアー」と書いたが、1994年といえば、ピンク・フロイドが今までのところ最新のアルバム「The Division Bell」を出した年で、このツアーはそのアルバムの発表に伴うものだった。この先彼らがその名前でアルバムを発表したりコンサートツアーをすることはまず無いと思われるので、そう書いたわけだ。

ところで、その「The Division Bell」が発売された際に、「私がピンク・フロイドである 世界一正しい新作『対』評」という評論がロッキング・オン誌94年6月号に掲載された。当時僕のお気に入りだった音楽評論家の一人、市川哲史さんによるもので、僕は今に至るまで、あれだけわかりやすく、面白く、的を射たピンク・フロイド評を読んだことがない。さすがに許可も得ずにその文章をここに転載するわけにはいかないので、興味のある方は是非古本屋で該当号を探してもらうか、夜空の南十字星にでもお祈りしてもらうしかない。

とにかく、その文章の要点を書くと、ピンク・フロイドとは実体のない概念のようなもので、その時々のご主人様の志向(嗜好?)によって音もポリシーも雰囲気も変わる、というもの。それによると、この94年度版デイヴ・ギルモア流ピンク・フロイドというのは、かつてロジャー・ウォーターズが表現していた閉塞的・内省的な外観だけをそのままに、でも実は演っている音楽は浅いお気楽なものに変わってしまったということだ。言いえて妙というのはこのことだろう。ロジャー脱退当時、多くのファンが「あんなのはピンク・フロイドではない」と嫌悪感をあらわにしたにもかかわらず、新生ピンク・フロイドのお気楽エンターテインメントはより広い層のファンを獲得したのだから。


二つ目さて、前置きはこれぐらいにして、今回の本題、ライヴDVDの話に移ろう(え、この長文が前置きだったのかって? いや、あの、皆さん逃げないで)。先述した通り、この「P.U.L.S.E」というライヴ映像は、95年にVHSで発売されており、その際のジャケットはCDと同じものだった。それが今回DVD化されるにあたり、まずジャケットから大幅変更された。元のデザインが瞳の周りを海・水滴・魚・精子・卵・鳥・雲・飛行機・砂漠・ピラミッド・砂浜が輪廻転生のように取り巻いているというものだったのだが、今回の新しいデザインは、その瞳を持った眼球が二つ、縦に並んでいるというもの。表ジャケットでは砂浜に。同封ブックレットでは森の中に。これはインパクト大だね。福本豊ならきっとタコヤキと言うはずのデザイン(すみません、一部の人にしかわからない話で)。おそらく日本でもそうだったと思うけど、数ヶ月前はこのDVDがどのCD屋でも一押し商品だったため、ポスターからPOPから、店内をこの二つ目が所狭しと占領していたものだった。

更に、DVD化で大量のボーナス映像が追加され、本編は2時間半弱なのにもかかわらず、収録された映像を全部観ようとすると4時間にも及ぶというとんでもないものになっている。本当はきちんと全編観てからこの記事を書こうと思っていたのだが、さすがにこの忙しい最中に4時間全部観るとなると、記事を書き始められるのがきっと年明けになるので、とりあえず2時間半の本編だけを観てから書いている。あちこちの雑誌記事などを見ると、ボーナス映像にも中々面白そうな素材があるようなので、それはまた追々観ることにしよう。

何から書こうかな。実は自分の中でこのDVDに対して賛否両論が巻き起こってるんだけど、まずは褒めて、それから叱ろうかな。子供の教育みたいなものだ(笑)

まず特筆すべきは、DVD化にあたっての画質・音質の向上。さすがに10年以上前のビデオ素材なので、いかに上手くリストアされたとはいえ、若干のノイズは散見されるし、強調された輪郭が人工的に見えてしまうところもあるのだが、それにしても非常にクリアな画質になっている。

それ以上に驚くのが音。このDVDには、通常のステレオ、ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)に加えて、ドルビーデジタル5.1ch(640kbps)という仕様が入っている。ここでは技術的な話はしないが、要は通常のサラウンド音源よりも更に高密度の音で再生できるというわけだ。必ずしもどのDVDプレーヤーでも再生できるという訳ではないらしいが、幸いなことに僕のプレーヤーでは大丈夫だった。

いや、これがもの凄くリアルな音。リアルという意味では、実際にコンサート会場にいてもこれだけクリアにあらゆる音が周りから聴こえてくるわけではないので(通常コンサート会場では全てのスピーカーがモノラル)、これはコンサートの疑似体験とはまた別物と考えた方がいいだろう。例えば、「Shine On You Crazy Diamond」で、「Remember when you were young〜」と歌われたすぐ後に入ってくる例の笑い声が左リアチャンネルから聞こえたときにどれだけ背筋がぞくっとしたことか。

この画質と音だけで、これはおそらく現存する全ての音楽DVDの中でも有数のリファレンス素材になり得ると思われる。オーディオマニア、AVマニア必見(真っ当な方のAVですよ)。

内容について。これは僕がさっき「お気楽エンターテインメント」などと揶揄して書いたことで大体察してもらえるだろうか。実は、さっきの点滅CDを除けば、僕はロジャー・ウォーターズ脱退後のピンク・フロイドのCDは一枚も持っていない。その理由を、これまで書いたのと同じ分量の文章をもって説明することもできるが、それはやめとくね(笑)。

Animals

僕がこのデイヴ・ギルモア版ピンク・フロイドを気に入っていない理由の例をひとつだけ挙げるとすると、例えばロジャー在籍時の「Animals」というアルバムは、音楽的な内容の是非は置いといても、あの「午後遅くどんより曇った南ロンドン、ふと空を見上げると、発電所上空に豚が飛んでいた」というシュールかつ神秘的な雰囲気というものにやはりファンの誰もが惹かれていたと思うんだけど、

Pig

この94年のコンサートでは、その豚がこうなってるんだもんね。しかも「Animals」とは何の関係もない「One Of These Days」演奏中にステージ両脇から突然これが現れ、両目からレーザー光線を発するという… これが出てきたときに歓声を上げる観客の気持ちが、僕にはわからない。

確かに、ふんだんに使われるレーザー光線や凝ったライティングは凄く綺麗だと思うし、エンディングで使われる、一瞬戦場かと思うほどの量の花火は凄まじいほどの見ものだ。そういう意味では一流のエンタテインメントなんだろうけど、これは僕の観たい類の「ライヴ」ではないよ。そして、それが実は僕が来年1月のロジャー・ウォーターズのコンサートに関して一番危惧していることでもある。さすがに彼は豚の目からレーザーを出させるような真似はしないだろうけど、こういうきっちり作りこまれたエンターテインメント・ショーになるのは間違いないだろうから。


なんだかせっかくブログに採りあげておいて、最初から最後までけなしてばかりの文章になってしまったけど、僕はこのDVDのことは実は気に入ってはいるんだよ。さっきも書いたけど音質・画質のことはもちろん、やっぱり何をおいてもストーム・トーガソン(元ヒプノシス)のデザイン。この二つ目小僧。あまりにこれが気に入ったので、何故か今僕の家にはこんなものがあったりする。

二つ目小僧

posted by . at 23:24| Comment(18) | TrackBack(0) | ビデオ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。