2006年09月18日

Bruce Springsteen 「The River」

元々このブログをロック名盤ガイドみたいな感じにするつもりはなかったから、ここで採りあげるアルバムは基本的には最近発売されて僕が気に入ったものを中心にしているし、過去のアルバムを採りあげる場合には、ここ数回のようにオリジナルから形態を変えて再発されたものを載せることにしている。有名なアルバムは今さら僕がわざわざ紹介するまでもなく、僕より知識豊富な評論家がもっと上手な文章で書いた立派なガイドブックが沢山あるからね。僕はもうちょっとマイナーなやつを掘り起こしてあげる、と。だからこそ、このブログタイトルにした訳で。

The River今回話をするブルース・スプリングスティーンの「The River」は、全然マイナーじゃないんだけど、まだそういう特別盤にはなっていない。数ヶ月前に買ったはいいがまだ聴く時間のない「Born To Run 30th Anniversary Edition」にからめて話そうかとも思ったけど、それにはまずあの箱に入っている合計4時間にも及ぶDVDを観ないと話にならないし、そんなことをしていたらこの記事が完成するのがいつになるかわからないから、今回は特例としてこの旧譜をストレートに採りあげよう(それにしても、時間がないという同じ理由でまだ封を開けてもいないボックスセットがうちに何箱もあるよ。果たして僕が生きているうちにあれを全部聴いて観ることができるのか?世間では「奇跡の未発表映像発掘!」とか言われてとっくに話題になってるのに、僕が我が家でそれらを発掘するのはまだずいぶん先の話になるなあ)。

前回・前々回採りあげたアルバム同様、このアルバムも僕をひたすらノスタルジックな気分にさせてくれるんだけど、これは僕にとってはまた特別なアルバムなんだ。忘れもしない1981年8月5日、その年の4月に入部して以来ずっとあこがれていた、水泳部で一年先輩のマネージャーだったTさんと初めて学校帰りに出かけ、阪急東通り商店街のレコード屋で一緒に買った思い出のあるLPだから。いや、別にデートとかそんな気の利いたものでもなく、「ラジオで聞いてすごく気に入ったレコードを買いに行こうと思うんですけど、一緒に行ってくれませんか?」とかなんとか言って、本当に一緒に買いに行っただけという、今から思えば子供のお使いみたいな話なんだけど。

ラジオで聞いて気に入ったというのは本当の話。当時FM大阪で、新しく出たLPから一曲を除いて全部をぶっ通しでオンエアするという番組があって、もちろんまだレンタルレコードなんてなかった時代だから、僕は毎晩のようにその番組をエアチェックしていた。このアルバムを知ったのも同じ番組で。確か除かれていた一曲は「Point Blank」だったように記憶している。

一般的にブルース・スプリングスティーンの最高傑作といえば、75年の「Born To Run」が挙げられるんだろうし、僕もそれに異論を挟むつもりはない。でもこの「The River」は(さっき書いた僕の個人的な思い出を差し引いても)80年代の幕開けを飾るにふさわしい、最高のロックンロールアルバム。今でも僕にとってのブルースは、「Born In The U.S.A.」での頭にバンダナを巻いた筋骨隆々のマッチョマンでなく、このLPの内ジャケにたくさん写真が載っている、なんでもないこざっぱりしたシャツを着たひょろっとした兄ちゃんのことだ。

二枚組LP。A面冒頭4曲の疾走感は、誰のどのアルバムでも味わえない特別なもの。過去四半世紀もう何百回と聴いた今でもまだ僕を25年前と同じ気持ちにさせてくれる。A面、B面がそれぞれアップテンポの曲4つの後にスイートなバラッドが1曲(A面の「Independence Day」はアメリカ独立記念日に親の元から旅立つ若者の話、B面の「I Wanna Marry You」はタイトルそのままのストレートなラブソング)。B面はその後に物悲しいハーモニカの音に導かれて始まるアルバムのタイトルトラック「The River」が続く。「I Wanna Marry You」まで、曲調にかかわらずポジティブな内容の曲ばかりだったのに対し、この「The River」は、若くして恋人を妊娠させてしまい、仕事も金もないまま結婚せざるを得ず、今は希望もなくなってしまった男が、若い頃にその恋人と泳ぎに行った川に戻る(しかし川はもう枯れている)といったなんとも暗い話。曲自体は名曲なんだけど。

それに続く2枚目のLPの冒頭が、これまた輪をかけて陰鬱な「Point Blank」。アルバム後半の出だし、前作なら「The Promised Land」、前々作なら「Born To Run」が収められていた重要な位置なのに。しかし、この曲が幕を開ける2枚目が、また別の意味で当時のアメリカを表現しているような気がする。このアルバムの裏ジャケットに載っている白黒写真、60年代風のペーパードールやアメリカ国旗なんかが写ったアメリカの家庭の一場面。一見古きよきアメリカを表している写真なんだけど、60〜70年代のアメリカンドリームなんてのが嘘っぱちだったとわかった今の眼で見ると、いかにも虚飾の風景。さっきの「The River」のように、うまくいかなかった人生を描いた曲が並ぶこの2枚目があるからこそ、この「The River」というアルバムがこれほど味わい深いものになっていると言える。先ほどの書き方を継承すると、C面はアップテンポとスローな曲が2対3、D面に至るとそれが1対3にまで減ってしまう。だからよくないと言ってる訳じゃない。D面最後の3曲など、聴いていて心が洗われるような気持ちになる。

最近はいつもこのアルバムを聴くときはCDをかけているんだけど、今回この記事を書くにあたって久しぶりにLPを聴いてみた。若い頃むさぼるように読んだためにもうよれよれになった歌詞カード。見る画像が圧倒的に少なかったから、今でも細部まで覚えているほど何度も見た内ジャケの写真の数々。懐かしい。そう、このジャケットのブルースの顔写真も、LPだと本物の顔ぐらいの大きさがあるんだよね。

ああ、この「Stolen Car」の最後のところでポツ、ポツ、って何回もスクラッチノイズが入るんだった。こういう雑音まで含めてアルバム全体を耳で覚えてるよ。もちろんCDで聴いていたらそんなの入ってない綺麗な音で聴けるんだけど、なんだかこういう自分だけのLPに入っている雑音って、好きになった女の子のほくろやそばかすみたいなもので、それを含めて妙に愛しいんだよね。なんだか曲そのものよりも、こういう雑音を聞いて急に昔が懐かしくなってしまった。僕のLPを録音してあげたTさん、まだあのカセット持ってて、この雑音まで覚えてくれているだろうか。

posted by . at 19:18| Comment(23) | TrackBack(2) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする