2006年08月21日

21世紀にプログレを聴き始めるあなたへ

僕のブログの最初の記事に、最近プログレに興味を持ち始めているという方がコメントを書いておられて(うーん、白々しいなあ。そうですよ、いつものKさんです)、この21世紀になって6年が過ぎようかという時になんと奇特な方がいるのかと驚いてしまった。

プログレなんて多分日本だけでの呼び方だけど、正式な名称プログレッシヴ(先進的な)・ロックが示すように、1960年代の末期から1970年代の中盤ぐらいまでにかけて、それまでシンプルなロックンロールやブルースを基礎にしていたロックに、クラシックやジャズの要素を持ち込んだもの。複雑な曲構成、難解な歌詞、即興演奏も含んだ長い曲(LPの片面で1曲なんてのはざら。両面で1曲なんてのも)、超人的な楽器のテクニック、意味ありげなジャケット画などなど、当時ちょっと背伸びして小難しい音楽を聴こうという人には最適なジャンルだったんだと思う。

別に当時に限らず、年代的には完全に後追いの僕のような世代だって、いわゆるプログレの名盤を買い漁って聴いたものだ。さっきはシニカルな書き方したけど、実際聴いて面白い盤はたくさんあるから。でも、正直言って僕がこういう音楽を聴き始めた1970年代末期には、プログレなんて過去の音楽だった。

特にその頃はパンクが出てきた時代だったんで、若者がストレートに感情をぶつけられる(演奏する方も聴く方も)パンクみたいな音楽に比べて、1曲聴くのに何十分もかかるような音楽に人気がなくなってくるのは仕方なかったし、でもそれよりも、プログレの人たち自身がプログレッシヴでなくなってしまったのが最大の原因だろう。しょうがないんだけどね、もう当時40にもなろうかという人たちがそんなに次から次へと新しい種類の音楽を生み出せるわけもなく、それにあのスタイルのまま更に進歩的であろうとすると、必然的に前衛音楽に向かってしまうしかなかったから(そっちに行った人たちもいて、それはそれで面白いんだけど、その話はまた今度)。

で、そういう音楽を今からいろいろ聴いてみようという人にどういう話をすればいいかな、と思いついたのが今回の話。かと言って、巷に溢れるプログレ名盤ガイドみたいなのを書いてもしょうがないし。60〜70年代のプログレ名盤の評価はもう確立してるから、まずどれから聴けばいいかを知りたければ、そういうガイドブックを買えばいい。僕よりはるかに詳しい評論家が懇切丁寧に教えてくれるから。

これからプログレを聴こうという奇特な人もいれば、この時代にプログレ・バンドを始める奇特な人たちもいる。正直言って、僕はその手の人たちをきちんと追っかけてるわけじゃないから、今から紹介するアルバムが果たして2000年代型プログレッシヴ・ロックの代表作なのかどうかは責任持てない。

きれいなジャケ ファー・コーナー 「Far Corner」

僕がこのグループを聴いたのは、音楽紹介サイト(って言えばいいのかな?)のパンドラ(http://www.pandora.com)でソフト・マシーンのステーションを作っていたら紹介されたのが最初。2004年発表のこれが今までのところ唯一のアルバムのよう。バンドのサイトもあるみたいだけどまだちゃんと見てないから、彼らについて詳しいことは何も知らない。一応アメリカのバンドのようだけど、メンバーの名前を見るとなんだか東欧系の人たちなのかな。

アルバム全篇インストゥルメンタル。4人のメンバーのうち一人の担当はチェロ。4名とも超絶テクニシャン。中期キング・クリムゾンを連想させる音(異論がある人が沢山いるのは承知で書くよ。クリムゾン・マニアはうるさいからね)。強いて言えば、その当時のテクニック重視のプログレ(○キング・クリムゾン、○イエス、×ピンク・フロイド、×ジェネシス)の音を、より速く現代風にした感じ? ご丁寧にクリムゾンの「Moon Child」風の展開まであって、緩急織り交ぜたダイナミックな曲が多い。全10曲のうち、17分台の組曲と16分の曲がそれぞれ1曲ずつ入ってる。

うーん、全然初心者向けの説明になってないよな。「Moon Child」聴きたければ、ガイドブックを参照にまずキング・クリムゾンのファーストを買ってみて。(またしても反論覚悟で書くと)あの完璧な名作の中で一番退屈な曲(笑)。ちなみにこのジャケットは、ロックのあらゆるアルバムの中で、ビートルズの数作と並んで最も有名かもしれない。子供の頃顔真似した人いるでしょ(笑) え、いない?僕の周りだけ?

びっくりジャケ キング・クリムゾン 「In The Court Of The Crimson King」


さすがにプログレ入門編の記事でこれだけじゃ酷いんで、もう少し付け足そうかな。さっき「テクニック重視のプログレ」なんて書き方をして、僕のお気に入りのピンク・フロイドに×をつけたことに驚かれるかもしれないけど、ピンク・フロイドというのは実はそういうグループ。例えば、他のどのプログレ・バンドのギタリストと比べても、デイヴィッド・ギルモアのギターって、ブルース基点の味のあるフレーズは弾くけれども決してテクニカルではないし、ニック・メイソンとロジャー・ウォーターズのリズム隊に至っては、僕は彼らがきちんと変拍子の曲を演奏できるのかどうかすら知らない。

だからこそ、あえてテクニック以外のところに意味を持たせることによって存続できた稀有なグループとも言える。グループ名も書いてない、牛が一頭写っただけのジャケットだとか、気が狂ってしまった元メンバーに捧げるメッセージをアルバム1枚に亘って繰り広げるだとか、印象的な一つのフレーズをアルバムのあちこちの曲に忍び込ませて、あたかもアルバム全体が組曲であるかのように聴かせるとか。

そういうグループの曲は、アルバム単位で聴くのがマストだろう。例えば、プログレ・バンドとしてのピンク・フロイドのアルバムをまず一枚お薦めするなら真っ先に挙げる「Meddle」(おそらく各ガイドブックには「The Dark Side Of The Moon」が代表作として載ってるんだろうけど、僕はどうもあのアルバムのことをあんまり好きになれなくて)。「One Of These Days」で武者震いのように幕を開け、続く(LPで言うと)A面の残りの曲で少し和んで、「Seamus」の犬のワンワン声を聞いたら(本当はここでB面にひっくり返すのが理想的)、後は大作「Echoes」に心ゆくまで浸る、と。

耳ジャケ ピンク・フロイド 「Meddle」


でもここでは、あえてそういう聴き方をしない方法をお薦めする。2001年に発表された彼らのベスト・アルバム「Echoes」だ。

ウォーリーを探せ的ジャケ ピンク・フロイド 「Echoes」

これは、さっきの牛のアルバムを除く彼らの過去全てのオリジナル・アルバムから選曲したもの。ピンク・フロイドのベスト・アルバムは何種類も出ているけれど、「The Piper At The Gates Of Dawn」から「Division Bell」まで全て網羅しているのはこれだけ。もうおそらく「Division Bell」がピンク・フロイドのラスト・アルバムになるのは確実だから、入門編としてはこれが最適だろう(さっきの「アルバム単位で聴け」という意見と矛盾してるけど)。考え方によっては、これはこれでピンク・フロイドという紆余曲折を経たバンドの歴史を、通常とは違った角度から網羅する組曲のようなものと言えなくもない。そう考えると、アルバムのオープニングとエンディングを、シド・バレット時代の「The Piper〜」のオープニングとエンディング曲にしたところあたり、メンバー自身が「ピンク・フロイドというのは結局シドが始めた壮大な組曲だったんだ」と告白しているようで興味深い。個人的には、シドの曲の中で僕が一番好きな「Bike」が最後なのが嬉しい。

とは言え、実はこのアルバムを本当に面白いと思えるのは、ある程度ピンク・フロイドをずっと聴いてきた人たちかも。まず目に付くのはジャケット。このCDは紙製のスリップケースに入ってるから、外と内の表と裏、合計4つの絵が描いてあるんだけど、そこに描かれているモチーフが全て過去のアルバムジャケットないしは曲に関連している。

例えばここに写真を載せた外・表のジャケットに写っている海パンをはいて頭を拭いている人物は「Wish You Were Here」の中ジャケで水に飛び込んでいた男。部屋の中には「Division Bell」のオブジェも置いてあるし、窓枠には「Animals」の豚もいれば「Atom Heart Mother」の牛もいる、などなど。こういうのが4つの絵の中に沢山隠れていて面白い。

ジャケットだけでなく、内容も1967年から1994年までのピンク・フロイドが(一見)順不同に現れて、今までアルバム単位で聴きなれた曲がなんとなく新鮮に感じられることも楽しい。しかも、ほとんどの曲が効果音などでつながっており、例えば「When The Tigers Broke Free」のエンディングの風の音がそのまま「One Of These Days」のイントロへとつながっていくところなんて、あのイントロのベースの音を知っている人が聴くとぞくっとするよ。

このCDが気に入って、きっとLPだとジャケットにもっとたくさんの隠し絵が載ってると思ったんだけど、箱入り4枚組の中に入っている4枚のLPスリーブは残念ながらあんまり面白いデザインじゃなく、しかも全部聴き通すのにレコードを7回もひっくり返したり取り替えたりしないといけない。それにCDだとせっかくつながってる曲がまた8つのパートに分けられてしまってるし、そういう事を全部考慮して、それは買わなかった。ほら、僕も別になんでもかんでも無差別に買ってるわけじゃないんですよ。

うーん、これだけ長々と書いて、結局2〜3枚しか紹介できなかった。まあいいや、どうせこれからプログレ聴き始めようなんて人がそううようよいる訳じゃないし、2枚もあれば充分でしょ(笑)
posted by . at 18:24| Comment(31) | TrackBack(1) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする