2006年07月02日

Pet Shop Boys are back! アルバム「Fundamental」評

Fundamental.jpgペット・ショップ・ボーイズ「Fundamental」

栄えある「ジミオン」アルバムレビュー第一回は、ペット・ショップ・ボーイズ(以下PSBと略)のニューアルバム「Fundamental」です。え、ちっとも地味じゃない?そうですね、今このブログを読んでくださっている僕とほぼ同年代の方々にとって、PSBのイメージとはどんな感じでしょうか。エレクトロ・ポップの代名詞。80年代バブルの申し子。(クラブでなく)ディスコで「Suburbia」にあわせて踊った方もいらっしゃるでしょう。ブルース・ウエーバーが監督した素晴らしくノスタルジックな「Being Boring」のプロモーション・ヴィデオを覚えておられる方もいるかもしれません。

でも、最近は?バブル崩壊とともに消えてしまったんでしたっけ?僕が彼らのファンだということを公言すると、返ってくる反応は「ペット・ショップ・ボーイズぅ?ぷっ」という含み笑いです。どうも僕が受け狙いで言ってると思われているようです。

この記事のタイトルを「PSBが帰ってきた!」としましたが、別に彼らは引退してたわけでも雲隠れしてたわけでもありません。オリジナル・アルバムはきっちり3年毎にリリースしていますし、2003年の集大成ベストアルバム&DVDの後は、リミックス・アルバム「Disco 3」、テナント&ロウ名義でサイレント映画「戦艦ポチョムキン」のサントラ盤、マドンナのシングル曲のリミックス、と今までにないほどの急ピッチで仕事をこなしていました。

で、今回のニュー・アルバムです。英NME誌の「この10年の彼らの最高傑作」や、ミュージックマガジン誌の「近年では一番の出来」といった評価は素直に信じられる内容に仕上がっています。いや、僕は前のアルバムもよかったと思ってますよ。「Home And Dry」なんて佳曲も入ってたし。でも今回のは本当に気合が入っています。昨日の記事からの続きでプロデューサーの話をすると、今回は初めてトレヴァー・ホーンと組んでいます。これもまた80年代に洋楽に親しんだ人にとっては思い出深い名前。そう、僕に言わせれば今回のPSBのアルバムのテーマは“栄光の80年代”なのです。

先行シングル曲「I'm With Stupid」はブッシュとブレアに対する皮肉たっぷりの曲で、最近低予算・低アイデアのものが散見された彼らのプロモ・ヴィデオに比べると、低予算ながら実にユニークなアイデアで笑わせてくれるヴィデオも◎です(興味のある方は、YouTubeにアップされていますのでどうぞ。ただ彼らのことを知らなければ笑えないかも)。

タイトルからして往年の名曲「It's A Sin」あたりのイメージを彷彿させる「The Sodom And Gomorrah Show」が一番の出来でしょうか。初回限定リミックスアルバムにこの曲が「Sodom」「Gomorrah」として2回も収められていることから察しても、彼らもこの曲が今回のアルバムの核だと認識しているのでしょう。「ロード・オブ・ザ・リング」のサルマンみたいな台詞で幕を開け、キラキラしたイントロに乗って、名盤「Very」に入っていても違和感ないような素晴らしいメロディーが繰り出されます。

4曲目「Minimal」のサビの歌詞は「エムアイエヌアイエムエーイエール、ミニーマール、ミニーマール」ですよ。わざとやってるとしか思えないこのチープさ!これからは僕が受け狙いでPSBファンをやってると思っている奴にはこの曲を聞かせてやることにします。

他にも、イントロで「お、Go West?」と思わせてくれるが実は素敵なバラッドな「Indefinite Leave To Remain」、最後を締めくくるにふさわしい「It's A Sin」似の「Integral」など、聴けば聴くほど馴染んでくる佳曲ぞろいです。彼らのことを知っておられる方がこの文章を読むと、「なんだ昔の曲に似たやつばっかりじゃないの」と思われるかもしれませんが、でも想像してみてくださいよ、そういう過去の名曲が一堂に一枚のアルバムに収められていたとしたら一体どんな出来になるか(そこまで言っちゃうとちょっとほめ過ぎですが…)。

ひとつ面倒な話を書いておかなければ。先述したとおりこのアルバムには通常盤と初回限定2枚組があるのですが、日本盤は東芝EMIから出ているため、2枚組の方はコピーコントロールCD(以下CCCDと略)なのです。僕はポリシーとしてCCCDは買わないことにしているので(この話を始めるとこの記事が短編小説並みに長くなってしまうので、そのうち別記事で話します)、限定盤は欲しいがCCCDは買いたくない、でも日本盤の通常盤にボーナストラックとして入っているヴィデオは欲しい、と大変悩ましいことになっていました。結局CCCDでないUK盤の初回限定盤を買ったのですが、もしこれからちょっと聴いてみようかな、程度に考えられている方には日本盤の通常盤がおすすめです。先述の「I'm With Stupid」のヴィデオ・クリップも入ってるし。なによりPSBの日本盤をなんとか非CCCDで出そうとしてくれた東芝EMIの担当者の方のご苦労をねぎらってあげたいと思いますから(僕は買いませんでしたけど。ごめんなさい)。

CD自体の話をしましょう。PSBの徹底した美学(例えばアルバムのタイトルは常に一単語とか、プロモーション・ヴィデオの監督にデレク・ジャーマンや本来写真家であるブルース・ウエーバーを起用するとか)にはいつも感心させられるのですが、今回のもすごいです。僕の買った限定盤のジャケットは上に載せたデザイン(真っ黒に見えますが、クリックして拡大していただくと右の方にPSBの二人がいるのが見えます)のスリップケース(プラスチックのジュエルケースを包み込む感じの紙ケース)に入っており、中のジュエルケースは全部真っ黒。リーフレットは指紋がついてしまうのがもったいないようなつや出し仕様の、これまた真っ黒の地にネオンサインを模した曲目表。その中に蛍光ショッキングピンクに塗られたCD盤が収められています(ちなみに2枚目は蛍光オレンジ)。僕のこのたどたどしい表現でうまく伝わっているかどうかわかりませんが、とにかく“芸術品”として手元においておきたくなる逸品です。僕がこのCDの封を開けたときの喜びを、少しはわかっていただけたでしょうか。ちょっとCCCDの話に戻ると、レコード会社もアーティストも、客にダウンロードやコピーをして欲しくなければ、こういう方向に頭を使って欲しいものです。

えらく長い話になってきたな。あのう、皆さん、まだ読んでますか?そろそろまとめに入ると、このCDは、80年代に青春を過ごしたあなたに、昔はPSBのレコード持ってたけどもうそんなの捨てちゃったというあなたに、是非聴いてもらいたいです。80年代にまだランドセルを背負っていた方、まだ哺乳瓶を手放せなかった方、このアルバムの前にまず手に入れるものがあります。2003年のベストアルバム「PopArt」を聴いて、このグループがどんなにすごかったかをまず体験してください。DVD版なら上記の有名監督製作のユーモアたっぷりの映像も同時に楽しめます。または、名盤「Behaviour」「Very」を中古CD屋で探してみてください。世間一般的には「PSB?ぷっ」扱いなので、捨て値で売られているのが簡単に見つけられるはずです。

   君はソドムとゴモラショーに行く?
   そこには君が求めるエンタテイメントと知識のすべてがあるよ
   太陽、セックス、罪、神の調停、死と滅亡
   ソドムとゴモラショー、それは一生に一度の劇

実際(?)のソドムとゴモラほど退廃的ではないけれど、この「Fundamental」というアルバムには、僕のような聴き手にとってのエンタテイメントのすべてがあります。
posted by . at 05:16| Comment(11) | TrackBack(0) | アルバム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする