2016年12月04日

Tamas Wells live in Shenzhen

中国に住んでてよかったと思えることなんてそう滅多にあるもんじゃないけど、これだけはひそかに期待していた。そして、思ったより早くその期待は実現した。今のところ最後の来日になる2014年6月から約2年半、ここ中国でタマス・ウェルズのライヴを観る機会がまた巡ってきた。

会場は地下鉄の橋城北駅から徒歩すぐのなんだかおしゃれな地域。A1、A2…とブロックごとに名前のついた一角にあるB10 Liveという名前のライヴ会場は、何故かB10ブロックではなくC2ブロック全部を占める、思ったより大きなハコだった。橋城北はうちから電車一本で行けるものの、万が一迷うといけないと思ってかなり早めに家を出ておいてよかった。改装工事中だったB10ブロックにまずたどり着いたときには、一体何がおこっているのかと焦ってしまった。

そうして迷いながらも開場の1時間も前にB10 Liveに来てみてびっくり。もう既に何十人も並んでるよ。整理番号も何もないから、とにかく並んだ順に入場。慌てて近くのバーで重慶の辛い麺と生ビールを腹に入れ、会場に戻って列の最後尾に並ぶ。これじゃ、ちょっと期待していた最前列なんてとんでもないな。

開場時刻の20時になる結構前(10〜15分ぐらい前かな)に、列がどんどん動き出す。きっと、あまりに列が長すぎて、早めに開場することにしたんだね。綺麗な作りのロビーに入っていくと物販エリアがあって、おなじみのタマスのCDと並んで見たことのない安っぽいジャケの09年北京公演のCD/DVDが売っていたから、迷わず購入。見るからに海賊盤ぽいんだけど、ちゃんとポケットレコーズから出てるオフィシャル盤なんだね。おまけにバッヂももらえてうれしい。

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だだっ広い会場に入っていくと、もうステージ前には人がびっしり集まっていて、左右の壁に沿って置いてある椅子もほとんど埋まっていた。まだ開演まで30分以上あるし、中途半端に真ん中あたりで見るよりはいいかと思い、左側の壁沿い中ほどの椅子に腰かけて待つことにした。会場の広さは、そうだな、東京でいつもタマスが使う会場で言うと、O-nestを縦に三つつなげて、天井を体育館並みに高くしたぐらい?

その大きな会場が、開演時刻の20時半近くになるともうほぼ満員。後ろの方に若干の余裕があったとはいえ、あれはたぶん600〜700人ぐらいは入っていたんじゃないかな。もちろん、座ってる僕の目の前にももうたくさん人が来ていたので、とても座ったままじゃ観られない。

ステージを見ると、マイクスタンドが2本、アコギとエレキ、キーボードが左右2台、後ろにはドラムキットもある。事前にどのサイトを見ても参加メンバーがわからなかったから、きっと今回はタマスのソロかと思っていたんだけど、バンドなんだね。ドラムまであるということはネイサンも来ているだろうし。あとは、前回来日時と同じくアンソニーとクリスかな。それともギターはキムかな。

20時30分ちょうどに中国語と英語でアナウンスがあり、会場が暗転。ものすごい大歓声に迎えられて、タマスと2人のメンバーが登場。ネイサンはドラムキットのところでなくステージ右手に行き、置いてあったフェンダージャガーを肩にかける。ドラムの人は誰だろう。新メンバーかな。アンソニーもクリスもキムもいないや。結構長く伸びた髪の毛をきちんとセットし、グレーのジャケットを着たタマスは、いつものマーティンのアクースティックギターを持ってステージ中央に。

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オープニングは「Vendredi」。歌い始めた途端、僕のすぐそばで「キャーッ」と大声を張り上げる女性ファン。すごいな、日本でのタマスのライヴじゃ想像もできないよ。何人かはタマスに合わせて歌ってるし。まあ、ステージで何が起こってようとずっと友達同士でしゃべり続けてるようなのもあちこちにいるんだけどね。まあいいや、中国のライヴがこんなんだってのは前からYouTubeとか見てわかってるから、こっちは集中してステージを観てよう。

「Writers From Nepean News」の後、タマスが中国語で自己紹介。「こっちは友達のネイサン。友達は“朋友”でよかったよね?」って言うだけで大歓声。そして「こっちのクリスは友達じゃない」と笑わせる。あ、この新キャラもクリスって名前なのか。タマスたちよりちょっと若い感じかな。彼はドラムス、キーボード、メロディカ、ウクレレ担当。あと例のチーンって鐘も。

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「真夏のメルボルンから南京に着いたら雪が降ってたんだ。深圳はなんていい気候なんだ」とか言いながら、セカンド以降の4枚のアルバムから満遍なく選曲されたセットが進む(セトリは最後に)。新譜からの「The Treason At Henderson's Pier」の後、「最近覚えた曲があるんだ。うまく歌えるかどうか自信ないけど」と言って、なんと中国語の歌を披露。もちろん大歓声。そして見渡す限りのスマホ動画撮影者。後で調べたら、「宝貝(Baobei)」って曲だった。これがオリジナル。これがタマスのあの声で歌われるのを想像してみて。



「誰か二人、ステージに来て手伝ってくれないか。口笛の吹ける人がいいんだけど」というのはもちろん「A Riddle」の時。うち一人はどうやら曲を知らなかったようで、例の口笛のフレーズをタマスが主旋律を歌ってる横でずっと吹いてるもんだから、歌ってるタマスも聴いてるこちらもちょっと苦笑い。まあでも、よくできました。

さっきクリスがいろんな楽器を担当してると書いたけど、もちろん彼が動くときはネイサンも別の楽器を担当する。器用な彼のことだから、ギター、キーボード、ドラムスそれぞれそつなくこなし、タマスの声に合わせてハーモニーを入れる。タマスは基本的にギターで、「Melon Street Book Club」をはじめ数曲でキーボードも弾いてたな。

久しぶりに聴く曲はいくつかあったけど(基本的に彼のライヴを観ること自体が2年半ぶりなので何でも久しぶりなんだけど)、新曲はないし、こんなの聴いたことなかったってのはさっきの中国語の曲だけ。曲の紹介にしても、タマスがまたこの話をし始めたなと思った時点でもう次が何の曲かわかってしまうから、「人間には理性に支配されている面ともっと内面から出てくるところがあって」という話をしたときに、あ、次は「Valder Fields」だと先に読めたんだけど、いざタマスがその曲目を口にすると、それはもうものすごい大歓声。そして、大合唱。うわ、こんなタマスのライヴ初めて。

「Valder Fields」の次に「The Northern Lights」と、僕内タマスソングベスト3のうち2曲みたいなのが続く。残る1曲も今回のツアーで演奏していることは知っていたから、もしかしたら本編終盤のここで3曲続けて演るのかなとも思ったけど、本編ラストはまた「何人かステージに来てくれないか。今度はコーラスが要るんだ」と、「I'm Sorry That The Kitchen Is On Fire」。タマスはもう「次の曲はThe Kitchen Is On Fire」としか言わないね。実話だかどうだか結局よくわからない例の逸話ももう紹介しないし。

男女2人ずつ、それぞれみんな背の高さの違う子たちがステージ左手のマイクのところでスマホに歌詞を映しながらコーラス。違うところから上がってきてたから友達同士じゃなかったんだろうけど、なんだか絵になるね。僕ももっと前にいたら手を挙げてステージに上がりたかったんだけど、残念ながら十数メートル離れたこの壁際から中国人をかき分けて前進する勇気はなかった。いきなり(おそらく)会場内最年長みたいな日本人が出て行ってもみんなびっくりしただろうし。

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それが本編ラスト。3人がステージ脇に消えると、すぐさまアンコールを求める歓声。でもこっちの人は「アンコール!」って言うだけで拍手とかしないんだね。そして、すぐに再登場。タマスはキーボードのところに行き、ネイサンがエレキ、クリスがドラムで始まったのは「Fire Balloons」。僕にとってのタマスソングベスト3の三つ目。これ確か前のツアーじゃ演ってないから、ずいぶん久しぶりに聴くことになる。

そしてこれが、ものすごいバージョンに化けていた。タマスが歌い終えた後、キーボード、ギター、ドラムの三つの楽器がそれぞれ同じフレーズを延々と繰り返しながら、どんどん高揚していく。クリスのドラムなんて、決して上手くはないんだけど、どこのハードロックバンドかというぐらいの激しさ。右腕をぶんぶん振り回して憑りつかれたように叩き続けている。

確か前回のツアーでは、エフェクターを通したクリス・リンチのギターの音と、ネイサンがiPadやらなんやらで出す効果音が不思議な空間を作っていたんだけど、今回はまた違った意味で、聴いているこちらの神経が麻痺してしまうようなドローン効果を生み出していた。まさかタマス・ウェルズのライヴでこんな爆音を聴くことになろうとは。

果てしないと思われた「Fire Balloons」でもう終わりだろうと思っていたら、最後は3人が真ん中のマイクに集まって、タマスのギター、クリスのウクレレ、3人の声だけで「Grace And Seraphim」でエンディング。ああ、これは美しいラストだな。

1時間半があっという間だった。しばらく会場にたむろしていたら、楽器を片付けに来るタマス達に会えるかなと思ってたけど、警備員に追い立てられてしまった。しょうがないので会場の外へ。物販には長蛇の列が。開演前に買っといてよかったよ。

外にもしばらくいたんだけど、たぶんまだ数百名残ってるこの場所でたとえタマス達に会えたとしても、とても話なんてできないだろうから、楽しかった余韻を味わいながら地下鉄の駅に向かった。

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後日談:タマスとネイサンにライヴの感想と撮った写真をメールしたら、2人から「会えると思って終演後に外を探したのに」って言われてしまった。ああ、そうだったんだ、もったいないことをした。新メンバーの名前はクリス・ヘルム(Chris Helm)といって、子供が生まれたばかりのクリス・リンチの代わりの参加だそうだ。でも、クリス・リンチが戻ってきたとしても、もう一人のメンバーよりはキーボードも上手く、ドラムも叩けるクリス・ヘルムが外れることはないんじゃないかな。この先、あの人懐っこいアンソニーに会えることはもうないのかなと、ちょっと淋しくなってしまった。


Setlist 27 November 2016 @ B10 Live Shenzhen, China

1. Vendredi
2. Writers From Nepean News
3. Thirty People Away
4. Lichen And Bees
5. Melon Street Book Club
6. The Crime At Edmond Lake
7. The Treason At Henderson's Pier
8. 宝贝
9. A Riddle
10. Signs I Can't Read
11. England Had A Queen
12. Never Going To Read Your Mind
13. Bandages On The Lawn
14. Moonlight Shadow
15. I Left that Ring On Draper Street
16. The Opportunity Fair
17. For The Aperture
18. Valder Fields
19. The Northern Lights
20. I'm Sorry That The Kitchen Is On Fire

[Encore]
1. Fire Balloons
2. Grace And Seraphim
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2016年01月11日

Other live performances in 2015

去年は32のライヴに行った。単純平均すると一月あたり2回より多く3回よりは少な目という感じか。これを読んでくれている人から見ると多いのか少ないのか、微妙なところかも。ただ、気に入った人を何度も観に行くということが多いから、実際観たアーティストはそこまで多くないんだけどね。たとえば、マット・ジ・エレクトリシャンは去年二回来日して、僕は東京近郊で観られる5回全部を観たし、グレン・ティルブルックも来日4公演に加えてUKでもスクイーズで観たから合計5回。32回のうち約1/3はその二人ということか。

3月末にグレンのライヴを観てそれまでほぼ休眠状態だったこのブログを立ち上げなおしたので、それ以前、去年初頭のライヴについては何も書いていないし、それ以降に観たものでもいくつかは忙しかったりとかいろんな理由でパスしてしまったものもあったので、完全に闇に葬り去ってしまう前に、それらのライヴについて覚えていることを少しずつ書いておこう(実際は2014年の後半にもブログに書いていないライヴにいくつか行っているんだけど、そこまで網羅するのも大変なので、あくまで去年一年間のレビューということで)。記憶の片隅をこそげ落としながら書くことになるので、大したことは書けないとは思うけれど。


1月12日 Haruka Nakamura @ 永福町 Sonorium
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今からちょうど一年前の三連休の最終日。初めて観るタイプのライヴ。リサイタルっていえばいいのかな。開始前には、寝てしまうんじゃないかなんて不安がっていたのが嘘のような、とても贅沢な時間を過ごした。ピアノと、いくつかの弦楽器と、厳かなコーラスと、蝋燭の炎。美しいものを経験すると、なんだか人間が一回り成長した気分になるね。実際にはそんなことなくてもね。機会があればまた観てみたい。


2月7日 Radical Face @ 光明寺
2月15日 Radical Face @ Nui

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インパートメント関連が続く。ラディカル・フェイスも、来日したら東京でのライヴには全て足を運んでいるアーティストだ。『Family Tree』の二作目お披露目ツアー。前回のジャックとジェレマイアに代わって、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であるベンのパートナーのジョシュが同行。光明寺と浅草Nui、どちらも甲乙つけがたい素晴らしい夜だった。『Family Tree』最終作がもうすぐ出るから、また近いうちに来日してくれるかな。


3月1日 The Pop Group @ Liquidroom
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まさかポップグループを観られる日が来るなんて。思えば34年前に『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』を聴いたのが、僕が音楽にここまでのめり込むことになったきっかけだった。ライヴではそのアルバムから一曲も演奏されなかったのが心残り。と思っていたら年内に再来日。残念ながら出張と重なってしまったんだけど、そこではセカンドアルバムからも演奏したというから、悔しさひとしお。


3月23日 Dylan Mondegreen @ 月見ル君想フ
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いつの間にか来日が決まっていて、慌ててチケットを押さえた記憶がある。別に新譜が出たわけでもなかったのに。作成中だというニューアルバムからも数曲演奏したけれど、ちょっとどれも印象が薄かった気がする。もうそろそろ出るのかな。前座として演奏した、台湾から来日したフォー・ペンズもよかったけど、僕にとってのこの日の一番の収穫は、一番手でステージに上がったシュガー・ミーを知ったこと。


3月26日 The Soft Machine Legacy @ Billboard Live Tokyo
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たまに来るビルボードの無料チケット。なかなかタイミングが合うことがないんだけど、今回は他に予定がなかったので行ってみた。きっと、現メンバーの中では古参のドラマー、ジョン・マーシャルが来られなくなったので、席が埋まらなかったんだろうな。時々知ってる曲はそれなりに楽しめたけど、なんだかやっぱりちょっと敷居が高いよ。ソフト・マシーンのアルバムならもっと楽しいのにな。


6月27日 Seth Walker @ Cafe Goatee
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3月末からは順調にブログも復活してたのに、6〜7月にライヴがかなり立て込んできた時にこれが抜け落ちてしまった。全然知らないアーティストだったけど、ゴーティの松本さんのお勧めで最新アルバムを買い、ライヴにも行ってみた。昨今の僕にとってはちょっとブルーズ風味が強いかなとも思ったけど、まあ、この手のアーティストで松本さんの推薦に外れはないからね。ふらっと行ってみてよかった類のライヴ。


11月8日 Anglagard & Anekdoten @ New Pier Hall
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カケハシ・レコードのおかげで、去年中盤はずいぶんとプログレ趣味に揺り戻したものだった。アネクドテンは昔のCD一枚しか持ってなかったし、アングラガルドはその時点では試聴しかしたことなかったのに、ユニオンのプログレ館でまだ比較的いい席が空いていたのでついチケットを買ってしまった。ダブルヘッドライナーということで、フルセットのライヴが二本。堪能できたけど、疲れたよ。脚を伸ばせる席でよかった。


12月18日 Yo La Tengo @ O-East
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なんだかんだでヨラテンゴを観るのもこれで三度目。相変わらず曲名はほとんど覚えられないんだけどね。今回は初期メンバーのギタリスト(ペダルスティールなども)も参加して、新作からのカバー曲を中心に(ほとんど知らない曲ばかりだったけど)いつものような爆音やアイラのキレッキレのアクションもなく、穏やかに和やかに過ごした二時間。こういうヨラもいいね。ジェームズにはもう少し歌ってほしかったけど。


これらと、ブログに書いた23のライヴが去年一年間に観たもの。今年はもう決まっているのはまだ一つだけだけど、今週あたりからちらほらと行きたいライヴの情報が出始めてきたので、そろそろまた手元に何枚ものチケットが集まってくる気がする。
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2015年12月25日

Jeffrey Foskett live in Tokyo

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来年4月の最後の『Pet Sounds』再現ライヴとかその直前の日程に割り込むように決まったビルボードでのビーチボーイズとか、僕はどちらも今のところ行く予定はないけど、その手のファンの人たちにとっては結構な散財が予定される来日ラッシュなのに、そこに追い打ちをかけるように突如ジェフリー・フォスケットの来日が決まったのは確か先月も末になってからだったはず。

ろくな事前告知もなく、12月23日のライヴに12月4日にヴィヴィッドのサイトで抽選開始という強気な販売方法だったけど、当日スタジオを埋めた多分100名弱のお客さんを見ると、それほど強気というわけでもなかったのかも。

今にも雨が落ちてきそうな冬空の下、目黒駅からどんどん坂を下って行ったところにあったヴィヴィッド・サウンド・スタジオ。ちょっと早く着きすぎたと思ったけど、来た順番に整理番号を配り始めたのでラッキー。場内では整理番号順に椅子が並べてあって(一番早く来た人が一番端になるというのはちょっと解せないだろうけど。それは僕じゃなかったけどね)、終演後のサイン会も同じ整理番号順というのはいいシステムだと思う。少なくともあんな大勢の出入りもままならない会場ではね。

それほど広くない会場にパイプ椅子がびっしりと敷き詰めてあって、後ろを振り返ると壁際には立ち見のお客さんも入っているほどだったから、一旦席に着くとなかなか動き回れる風でもない。トイレも多分数箇所にしかないから、缶ビールとか売っていたけどちょっと遠慮してしまう。なので、開演までの30分ほどを、ずっと流れていたチップマンクスの虫声を聴きながら過ごした。

前座はペンフレンドクラブという男女混成6人組のバンド。ペットサウンズ風のバンドロゴから想像していたほどビーチボーイズ風ではなかったけど、いかにもジェフリーの前座を務めそうないい感じのバンド。僕の座っていた位置のせいか、バンドの音にかき消されてリードボーカルの声がほとんど聞こえなかったのがちょっと残念だった。もしかしたらジェフリーが自分のパートで演るかもと期待していた「New York's A Lonely Town」などのカバー曲が大半に、オリジナルを2曲ほど取り混ぜて、全部で40分ほどのステージ。

長門芳郎さんがマイクを持って出てきて(本人を見たのは初めて)、ジェフリーを呼び出す。白っぽいアロハシャツみたいなのを着ている。ペンフレンドクラブのボーカル君が「すごい大きな人ですよ」と言ってたほどの長身ではないね。最近のアー写や新作のジャケどおり、僕が04年にブライアンのバンドで観たときよりはかなり痩せたと思う(一般的にはとてもスリムとは言えない体形だけど)。

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楽器も持たずに「新譜を出したのでそこからの曲を歌うよ」と言い、ステージ脇のDJさんに合図してボーカルトラック抜きの音源を流させる。なんとカラオケか。登場前からマイク下に置いてあった歌詞カードでネタバレしていた1曲目は「No Matter What」。やっぱりいい声だね。高音がちょっと苦しそうではあるけど。ギターソロのときには両手で後ろに置いてあるギターを指さしたりして。

「クリスマスだからこれを歌わないとね」と言って、これも新譜からの「I Wish It Could Be Christmas Everyday」、さらに「これはボブ・ディランが書いた曲だけど僕の友達のロジャー・マッギンが歌った歌だ」と、新作中では僕の一番のお気に入りである「My Back Pages」がもう登場。この曲からカラオケに合わせてギターも弾きながら歌ったんだけど、ソロとかなんかちょっとたどたどしいぞ。

カラオケはそこまでの3曲で、次が確かバディ・ホリーの「True Love Ways」。むー、パンダチーズの曲だ。思わず笑そうになるのをこらえる。それより、さっきよりはましとはいえ、ギターがどうも平凡だね。この人って、ブライアンのバンドのバンマスだったんじゃないの?もっと安定した演奏するんだと思ってたんだけどな。

「何かリクエストはある?」と訊くジェフリーに、客席から次々に曲名が。ほとんど誰もがビーチボーイズの曲をリクエストするね。「それは後でペンフレンドバンド(よく間違えてた)が再登場したときに一緒に演奏するから」「ごめん、それは歌詞を忘れた」「それも後でペンフレンドバンドが再登場したときに一緒に演奏するから」「それも後でペンフレンド(以下略)」てな感じで、最後には「ごめん、リクエストを募った僕が悪かった」と、結局ロイ・オービソンの「Crying」の弾き語りを。

でも、そのすぐ後で申し訳なさそうに「リクエストしてくれたSurfer Girl、最初のコーラスだけなら歌えるよ」と、短いバージョンを歌ってくれた。魔法のような声だね。あれが聴けただけでも来た甲斐があったと思える約1分。

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ここでペンフレンドクラブを呼び出し、共演を。どうやら最初は全員一列に並んでコーラスをやるような手筈になっていたようで、突然「バンドで演ろう」と言いだしたジェフリーに一同戸惑い、キーボードの子は楽譜を取りに楽屋に戻る始末(ジェフリーは「彼女は辞めたのか?」とか訊いてるし)。

そこからは(実は僕の位置からは床に置いてあるセトリが丸見えだったので最初から全部ネタバレだった)主にビーチボーイズの5曲を一気に。リクエストコーナーでも声が掛かっていた曲ばかりだけあって、ここは盛り上がる。曲順は後述。ジェフリーのギターもこのあたりまで来るとエンジンがかかってきた感じでよかった。

デュッセルドルフから到着したばかりだというジェフリーは、あまり寝られていないのか、しきりに喉を気にしていたし、冒頭からほとんどの曲間でミネラルウォーターを飲んでいたし、トローチぽいタブレットも何枚も補給していたね。でも、あれだけ苦しそうにしていながら、あの声が出るのはやっぱりすごい。

個人的には、かつて友人たちと一緒に作って聴かせ合った人生ベスト20ミックスCDに入れたぐらい好きな「Don't Worry Baby」がやっぱり一番よかった。この曲をカールのオリジナルトーンそのままに歌える人が、今自分のすぐ目の前で歌ってくれてるなんて。感動。

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本日2曲目のクリスマスソング「Little Saint Nick」から最後は「Fun, Fun, Fun」で予定通りの曲数を終了。前座のバンドより短いぐらいのセットだね。一旦引っ込んでアンコールかと思いきや、長門さんが登場して「すみません」と。デュッセルドルフから飛んできたばかりで喉の調子が悪いのはしょうがないけど、28日にコロラドでライヴがあるからというのは言わなくてもよかったんじゃない?

あと、そこまでタイトなスケジュールで肝心のライヴが本調子でないなら、このライヴの翌日とさらに次の日に予定されていたインハウスライヴとサイン会、順番を入れ替えた方がよかったと思うのに(クリスマス当日とかイヴにライヴだとお客さんが入らないと思ったのかな)。

整理番号通り最初の方に列に並び、ジェフリーにサインをもらう。僕より前の方の人の番を見ていると、いろいろファンの方が話しかけてもほとんどジェフリーはにこやかにうなずくだけであまり会話していないね。僕の番になって「貴方のソロの曲を聴きたかったです」と言ったら、かすれそうな声で「サンキュー」と返してくれた。そんなに喉の調子が悪かったのか。ニューアルバムに几帳面なサインをもらい、一緒に写真を撮ってもらって、ライヴ中に降り出してもう止んでいた、雨に濡れた坂道を目黒駅の方に上って行った。

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23 December 2015 @ Vivid Sound Studio

1. No Matter What
2. I Wish It Could Be Christmas Everyday
3. My Back Pages
4. True Love Ways
5. Crying
6. Surfer Girl
7. Darling
8. Guess I'm Dumb
9. Don't Worry Baby
10. Little Saint Nick
11. Fun, Fun, Fun
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2015年12月13日

Matt The Electrician live in Kamakura Autumn 2016 Part 2

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年末進行でバタバタしててこの数週間ブログを書いてる時間が全然なかった。さすがにライヴから三週間も経ってしまうとかなり記憶も薄い。でも、今回観た三公演で最高の出来だったこの最後の夜のことを書かないわけにはいかない。なんとか記憶を辿りつつ書いてみよう。

三連休の最終日だったからなのか、満員だった前日と比べるとちょっとさびしい客の入り。それを反映したかのような若い整理番号のチケットで、前日とは反対側になる最前列の席を確保。友達も一緒だったから、赤ワインのボトルを開けて開演を待つ。

「Accidental Thief」がこの日のオープニング。「毎日同じセットにしないように努めるけど、確約はできないよ」と前の日に言ってたとおり、この日は前日とも、そして初日の新丸子公演ともかなりセットリストを変えてきてくれた。2曲目の「I'm Sorry Hemingway」なんて、たしか僕はライヴでは初めて聴いたはず。

「ジョン・エリオットを知ってる?」とマット。そのタイトルの彼の曲なら知ってるけど。「彼は僕の友達。知らなくても別にかまわないけど」と言いながら、そのジョン・エリオットの曲を歌い始めた。最初のさわりだけ歌って(結構いい曲だったよ)、そのまま自作の「John Elliott」へ。後日、サンフランシスコのソングライターのジョン・エリオットを検索して(検索には相当苦労する名前だ)何曲か聴いてみたけど、悪くない。ちょっと時間ができたらちゃんと腰を落ち着けて聴いてみようかな。

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「僕は煙草を止めたわけじゃない。ただ、数か月の間吸ってないだけ」という説明をしたのはこの日ではなかったかな。「止めるなんて決心するのは大変だからね。でも、たしか最後に吸ったのは4か月ぐらい前かも」と。それが、4月に出るシングル第三弾のB面「I Don't Have Anything To Do With My Hands」の前説。

この日の「It's A Beacon It's A Bell」はいつもとは違ったイントロだった。もう彼のライヴは両手の指でも足りないかもしれないぐらいの回数を観てきているから、よほど普段は演らないような珍しい曲やカバー以外は最初の一音でわかるんだけど、これはいったい何だろうと思っていたところに“Was exactly at the right time”とお馴染みの歌詞が出てきたのはやけに新鮮だった。

友達がリクエストしていた「Water」を挟み、「この曲も先日の結婚式で歌ったんだ」と、ニール・ヤングの「Comes A Time」。これはよかった。こんなのが聴けるとは。

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前半の残りは確か今回恒例の「Crying」や「Got Your Back」などおのろけコーナー。この日は初日の新丸子で着ていた奥さん手製の刺繍入りシャツを着ていて、「これもう見せたっけ?」と何度も背中を見せて笑わせていたね。僕の大好きな「I Wish You Didn't Feel Like My Home」と、去年の来日時にも歌っていたキャンパー・ヴァン・ベートーヴェンの「When I Win The Lottery」で前半終了。

後半1曲目は「Pioneer Bride」。もしかしてライヴでこの曲聴くのは初めてだったかも。と思ってたら、続く「Daydreamer」もたぶん初聴きのはず。前日とセトリを変えようと一所懸命考えてくれてたんだろうな。でも、その次の(これも今回の新丸子/鎌倉では演奏していない)「Muddy Waters」では、途中まで歌ったところで恒例の歌詞忘れ発令。もうこのときは完全に演奏を止めてしまって「今のはテスト」とか言って最初からやり直してたね。

アラスカに行ってきたという話に続けて歌った「Bridge To Nowhere」もおそらく初聴きで、毎回セトリは変えるけどなんだかんだ言って同じような曲ばかり演ってる誰かさんとは違って、この日はかなり懐の深いところを見せつけてくれた。これだから、この人のライヴには何度も足を運んでしまうんだよね。三連休の最後で翌日仕事だからとこの日は敬遠した人たち、残念でした。

「Never Had A Gun」は曲を始める前の試し弾きのときからやけに強いカッティングをしてるな、とは思ってたんだ。そしたら案の定(?)、曲の途中で4弦が切れてしまった。そのまま最後まで演奏したけど、やっぱり4弦なんてメインで使う弦が切れてしまうとさすがに変な音で、最後は苦笑しながらのエンディング。それにしても、1弦とか細いのが切れるのはよく見るけど、あんな真ん中の弦が切れることってあるんだね。

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常連のJさんが弦を張り替えてあげている間、マットはバンジョレレに持ち替えて「Little Hands」を。これもまた珍しい。途中のソロのところまでに弦を張り終えていたJさんに、まだチューニングもきちんとできていないそのギターでソロを弾かせるという無茶振りまでしていた。しかしまあ、ここまでお客さんと一体になるなんて、ゴーティならではの光景だね。

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「次の曲では3弦が切れるよ」と笑わせて(実際にはD StringsとかG Stringsって言ってた)、僕の中では既に名曲認定されている「The Bear」へ。そして、そのまま曲紹介もなしに、たしか前回の来日時にリクエストして歌ってもらった「Lost」が次に出てきたときにはちょっと感動してしまった。

トム・フロインド絡みの逸話を紹介して始めた「Osaka In The Rain」では会場から小さなコーラスが入る。やっぱりこの曲は日本公演では定番で外せないと思ってるんだろうね。こちらもちゃんと応えないと。

この日の昼にマットがインスタグラムに沖縄料理の豚丼の美味しそうな写真をアップしていたのを見たんだけど、ここで前日からリクエストしておいた「Bacon Song」を、「今回の日本ツアーで食べた沢山の豚にささげる」みたいな紹介をして歌ってくれた。途中で歌詞に出て来る「Turducken」の説明もきちんと入れて(七面鳥に鴨を入れて、さらにその中に鶏を詰める料理? 帰って写真を検索してみたけど、ちょっとグロテスク。あんなのがクリスマス料理なんだね、アメリカでは)。

最後は、今回の来日公演で披露してくれた未発売の4曲のうちでは一番の出来なんじゃないかと思う「20/20」で一旦締め、特にどこに行くともなくそのままアンコールへ。最初は、たしかかつてジム・ボジアもこの場所で歌ったことがあったはずの、マイケル・ペンの「No Myth」。子供の頃に好きだった曲って言ってたね。

「一日一回はポール・サイモンの歌を歌わずにはいれない」と、「Papa Hobo」を。彼の歌うポール・サイモンの曲はメドレーに挟み込んだ短いフレーズも含めるとこれまで沢山聴いてきたと思うけど、この曲はたしか初めて。本当に初披露(僕にとっては、ということだけど)の沢山詰まったセットだったな、この日は。

マットがそれで終了しようとしたら、松本さんが「もう一曲」と(超ロングセットだった前日に比べると物足りないと思ったのか)催促。ここで再度バンジョレレに持ち替え、もう最後はこれしかないだろうという「Train」で声を絞り出し、今回の日本公演はすべて終了。

「シリーズのシングル盤を出すたびに来日するの?」と何人ものお客さんが(僕も含めて)マットに質問する場面に遭遇して、そのたびに彼は「いやそれは無理だよ」と答えていたんだけど、今回で確か8回目の来日になるほど頻繁に来てくれている彼のことだから、次もそんなに間を開けずに来てくれることだろう。

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23 November 2015 @ Cafe Goatee

1. Accidental Thief
2. I'm Sorry Hemingway
3. Concerning The Lincoln And Douglas Debates Or Love Found Lost
4. John Elliott
5. I Don't Have Anything To Do With My Hands
6. It's A Beacon It's A Bell
7. Water
8. Comes A Time
9. Crying
10. I Wish You Didn't Feel Like My Home
11. Got Your Back
12. When I Win The Lottery

13. Pioneer Bride
14. Daydreamer
15. Muddy Waters
16. Bridge To Nowhere
17. Never Had A Gun
18. Little Hands
19. The Bear
20. Lost
21. Osaka In The Rain
22. Bacon Song
23. 20/20

[Encore]
1. No Myth
2. Papa Hobo
3. Train
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2015年11月29日

Matt The Electrician live in Kamakura Autumn 2016 Part 1

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新丸子公演に続いて金沢、京都と廻り、前日の土曜日には千葉でどなたかの結婚式で演奏したあと(元々今回の来日はそれが主目的だったそうだ)、日本でのホームグラウンドともいえる鎌倉カフェ・ゴーティに戻ってきたマット。もう一週間も経ってしまったので若干記憶がおぼろげなところもあるけど、まずは鎌倉初日、日曜日の様子について書こう。

この日はカウンターの方までずらりと立ち見の出るほどの満員御礼だった。子どもを連れてきていたお客さんも何名かいたね(ほとんどの子はゴーティのなる君が遊び相手になってあげていたけど、ひとり僕のすぐ近くに座っていた女の子が、最後までじっと座って音楽を聴いていたのが印象的だった)。

比較的いい整理番号だったので、ピアノ側のわりと観やすい席を確保。マットはリハーサルが終わったらどこかに出かけてしまったのであまり話せなかったんだけど(もしかしたら僕にリクエスト責めにされるのが嫌だったのかも)、それでも彼が戻ってきたときに、ここしばらく聴いていない気がする「College」をリクエストしたのと、「あとどうせポール・サイモン演るんだったら、The Boxerはできる?」と訊いてみたけど、残念ながら歌詞が全部わからないとのこと。「じゃあ、ポール・サイモン・メドレーの一部でお願い」と更にしつこく。

第一部。冒頭3曲は新丸子公演と曲順まで含めて同じだった。新丸子にも来ていたお客さんは何人ぐらいいたかな。僕を含めてたぶん4〜5人ってとこかな。別に誰も同じセトリだったとしても気にするような人はいないんだけど、逆に、ソロのときはきちんとセットリストを作らないって言ってたマットがこんなに同じ流れで演奏するのも珍しいのかなとも思った。

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その後に出てきた曲も、基本的には新丸子で聴いたものがほとんど。奥さんと付き合い始めた頃にラブソングは書かないと言った云々は「Crying」のエピソードだったね。1曲、知らない曲だなと思っていたら、デイヴ・アルヴィンの「King Of California」のカバーだった。「日本の作家(歌詞にも出てくる谷崎潤一郎)に影響された」と説明して歌い始めた「Under The Wire」は初めて生で聴いたかな?と思ったけど、帰って調べてみたら2012年に一回鎌倉で聴いてるね。

「次の曲で前半は終わり。リクエストのある人は休憩中に話しかけてきて」と言いながら、「最後の曲はさっきリクエストされたんだ」と、「College」を演ってくれた。「この曲には数字が沢山出てくるから、ちゃんと数字を合わせて歌わないと」と言っていたとおり、最後の「18年前」って歌詞を「23年前」って替えて歌ってたね。

第二部の最初は「The Family Grave」。休憩中にお客さんと話していた、今着ているシャツは新しいのかどうかという話を受けて、「ちゃんと説明しておこう。これは新しいビンテージのシャツ。あと、僕は昨日千葉で演奏したけど、ディズニーランドに行ったわけじゃない」と(これは、前日に僕が彼のインスタグラムを見て「ディズニーランドのところにあるリゾートホテルで演奏したの?と開演前に訊いたのを受けての話)。

そして、結果的には僕のリクエストとなった「Party」が2曲目。これもたしか開始前に、新丸子ではシングル盤シリーズの11月A/B面、1月A/B面、4月B面の曲は演奏したのに、どうして4月に出るA面の曲は演らないの?という話をしていたから。

「この曲はライブで歌うのは初めてなんだ」と、歌詞を書いた紙を前列のお客さんに渡し、それを読むためにメガネをかけて歌いだした。「メガネをかけて歌うのも初めて」って言ってたね。演奏後、「本当はこの曲にはかっこいいギターソロが入ってるんだ、こんなの」と言いながら真似しようとしてたけど、あんまりよくわからなかった。きっと、4月のシングルを一緒に作った人がレコードでは弾いてるんだろう。

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ハーモニカの話もこの曲のときだっけ。それとも「20/20」かな。レコードでハーモニカを吹いてるのは自分だけど、その後ライヴでもハーモニカホルダーを装着して演奏してみたら、髭が挟まって抜けたりして大層難しかったと。「だからもうハーモニカはやらないよ」って。

ポール・サイモンの「Train In The Distance」を歌い、「この曲は昨日の結婚式で歌ったんだけど、よく考えたらこれって離婚する歌詞だった」と笑わせる。「あと、さっきのKing Of Californiaも歌ったけど、あれは離婚こそしないものの、結婚前に死んでしまう人の歌だ」だって。日本人はあまりちゃんと歌詞がわからなくてよかったね。

後半、「The Bear」〜「Loma Prieta」という新丸子パターンの曲順の後、マットがバンジョレレを手にしたときに松本さんがあるお客さんに「リクエストしなよ」と声をかけ、そのお客さんは「All I Know」をリクエスト。マットは「じゃあこの曲を演ってからその次にね」と先に「Animal Boy」を。

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その4曲でラストかと思っていたら、「これもリクエストされた曲。実話に基づいてるんだ」ときた。いや、僕は「For Angela」はもうリクエストしてないよ。でも、たしか開演前に別のお客さんとマットと3人で話していたときに、そのお客さんが「For Angela」はいい曲だという話を切りだし、僕が「いつもマットは歌詞忘れるからもうリクエストしないでおくよ」と言ったら、マットは「いや、あの曲はアメリカではよく演奏してるんだよ」というやりとりがあったんだけど、あれはリクエストしたということになっていたんだろうか。

マットの言葉どおり、手慣れた感じで(いつものように歌詞を忘れる前に急いで歌うような雰囲気でもなく)途中までは歌っていたんだけど、お客さんが二度くしゃみをしたときに「Bless You」なんていちいち言うもんだから、やっぱりそこでポカンと歌詞が抜けてしまった。どんなギャグだ、まったく。でも、ようやく最後まで到達したらもう余裕で、通常の歌詞「彼女の給料を上げてください。組合に入れてあげてください」にアドリブで追加して「セクシャルハラスメントで困っていたら集団訴訟団に入れてあげてください」とか歌ってて可笑しかった。

そして、本編ラストは「Milo」。あ、これも僕がポール・サイモン・メドレーの話をしたもんだから、それを覚えてて演ってくれようとしているのかな。「The Boxer」も歌い込んでくれるんだろうか。

なんて思いながら聴いていたら、これがものすごく長いバージョン。「April Come She Will」とか「Slip Sliding Away」とか普段は挟まないような曲まで歌ったはいいものの、でもどちらも途中で歌詞がわからなくなってふにゃふにゃとごまかしながら歌い、最後もう収拾がつかなくなったところで「Bridge Over Troubled Water」で締め、「Milo」に戻した。「あの曲はすべてを丸く収めるんだ」とか終わってから言ってたね。結局あのメドレー、10分ぐらい歌ってたんじゃないだろうか。そして「The Boxer」は結局忘れていたようだ。

アンコールに入ろうとしたときに松本さんが「マット、後半もう80分も演ってるんだけど、まだ演るの?」と訊いたけど、マットは「長すぎる? 別にいいよね。誰かもう眠いかな」とやる気満々。そして「Only For You」へ。

最後にもう1曲、今の奥さんの前に付き合っていた彼女の名前がレインボーだったからと練習したという「Rainbow Connection」で幕。「僕が歌うと、カーミットというよりはゴンゾみたいだよね」って言ってたけど、残念ながら僕はセサミストリートとかマペットのキャラクターあんまりよく知らない。

終わったときにはもう10時前になってたかな。マットもお疲れの様子だったけど、僕の持っている彼のCDではもう数少なくなってしまったサインなしのこのアルバムにサインしてもらって、「ではまた明日」と言いながら鎌倉を後にした。

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22 November 2015 @ Cafe Goatee

1. I Don't Have Anything To Do With My Hands
2. Mountains
3. It's A Beacon It's A Bell
4. I Will Do The Breathing
5. Ghost Story
6. Crying
7. King Of California
8. Under The Wire
9. College

11. The Family Grave
12. Party
13. Osaka In The Rain
14. Train In The Distance
15. Prison Bones
16. Never Had A Gun
17. 20/20
18. The Bear
19. Loma Prieta
20. Animal Boy
21. All I Know
22. For Angela
23. Milo

[Encore]
1. Only For You
2. Rainbow Connection
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2015年11月21日

Matt The Electrician live in Kawasaki

調べてみると意外に直線距離だとうちから近いことがわかった新丸子のバー、デレク&ザ・ドミノス、ジグザグに走っている東急線のおかげで電車だと妙に時間がかかってしまうので今まで訪れたことはなかったんだけど、今回のマットのツアーで鎌倉以外にもう一回ぐらい観ておきたいなと思い、今にも雨が落ちてきそうな中、足を運んでみた。

メールで予約しておいたら、ちゃんと席のところに名前を書いた紙が置いてあった。カウンターかアーティストの真ん前の丸椅子か選べるというから、じゃあ丸椅子でと言ったつもりだったんだけど、用意されていたのはカウンターの前の方だった。結果的には、飲み物も置けたし開演前に腹ごしらえもできたからカウンターでよかったけどね。

カウンターにはマットのCDが何枚かと、なぜかゴスペルビーチのCDと、あとは前回の来日時にアナウンスされていた、出たばかりのマットの7インチシングルが置いてあった。もちろんそれは買う。松本さんによると、1月に出る予定の次のシングルも特別に1枚だけ持ってきてくれたそうだ(プレイヤーがないから聴けていないらしいけど)。そんなに制作意欲があるんなら小出しにせずに新作アルバム作ればいいのに。楽器のセッティングをしていたマットのところに行って、新曲演ってねとお願いしておいた。

5か月前のティム・イーストンとの来日時、鎌倉でも前座を務めたホテル・コングレス君がこの日もオープニングを務めた。わずか3曲だったけど、あいかわらずの渋い声でまずは場を暖めてくれた(実際、満員の会場はこの時点では汗ばんでしまうほどの室温だった)。

マットはいつものチェックのネルシャツやTシャツではなく、襟のついた黒い半袖シャツにジーンズといういでたち。ギターもバンジョレレもいつものやつだ(どこのメーカーかわからないけど、ギターにはM、バンジョレレにはSという文字っぽいロゴがついている。まさか、MattとSeverの頭文字じゃないだろうな)。

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1曲目、いきなり知らない曲だ。これが噂の新曲なのかな。曲紹介も何もないまま、続く2曲目も知らない曲。どちらも、一回聴いただけですごい名曲と判断できるほどのものじゃなかったけど、6月に初めて聴いた「The Bear」が、今回シングルを繰り返して聴いてみてあんなにいい曲だとすぐには思わなかったのと同じパターンなのかもしれないから、あえて今時点でコメントするのは避けよう。たぶん今回の鎌倉でまた聴けるだろうし。

3曲目でようやく知ってる「It's A Beacon It's A Bell」。さっそく途中でポカンと歌詞を忘れるマット。おいおい、こんな新しい、しかも今や代表曲と言ってもいいほどの曲の歌詞を忘れるかね。

「新しいシングルを出したんだ」と、この日初めてのMC。「そのシングルのB面の曲を」と言って「Never Had A Gun」を演奏。6月は僕の観た日にはこの曲は演らなかったから、松本さんがアップしていたビデオ以外で、生で観るのはこれが初めて。今までにあまりないタイプの曲だよね。かっこいい。

メモを取っていたわけじゃないので特にこの先はちょっと曲順があやふやなんだけど、演奏した曲は全部網羅しているはず(一応最後にセトリは載せておこう)。この日はウォームアップの意味もあったのか、新曲の他はほぼ代表曲と言ってもいいようなスタンダードな選曲。

最初の数曲、なんだかどんどん音が割れてくるなあと思っていたら、どうやらマットのエフェクターの電池が切れかけていたようで、途中で一旦そのエフェクターを外して結線し直すためにしばし中断。その後はギターからアンプに直接つないでいたようで、音もすっきり(正直言って、普段はどんなエフェクターを使ってどんな効果が出ていたのかよくわからないんだけど)。

マットの奥さんが刺繍をやっていて、ネットで販売していることは知っていたけど、この日彼が着ていた黒いシャツも、既製品の背中部分に野球選手の刺繍をしてくれたと、途中でくるっと背中を見せてくれた。「今日は何曜日だっけ?」という話から始まって(火曜日)、「日曜日にオースティンを出発したんだけど、前日の土曜は僕らの17回目の結婚記念日だったんだ」と、いつになく奥さんの話が沢山出る。高校の同級生で、知り合ってからもう25年にもなるんだとか。ラブソングは書かない、と奥さんにはずっと言ってたそうで、「でもこれは彼女のために書いた曲なんだ」と言いながら、「Got Your Back」を演奏。

前半最後にもう一つ知らない曲を演奏して、休憩へ。満員の場内にトイレが一つしかないから全然列が途切れない。マットのところに行って、早速新曲のことを聞く。一番最初に演ったのはなんと来年の4月に出す予定の次の次のシングルからの曲「I Don't Have Anything To Do With My Hands」、2曲目が1月のシングルのA面「Mountains」、そして前半ラストがそのB面「20/20」(一応マットの眼前でメモを取っていたので表記は正しいと思うけど、発音は「トゥエンティ―・トゥエンティ―」だった)。

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後半1曲目は「Accidental Thief」、そして「I Will Do The Breathing」。この曲演ってくれるんだ。これは大好き。さらに、「この曲も奥さんのために書いた」と「Crying」。同じアルバムからの曲が続く。さらに後半には「I Wish You Didn't Feel Like My Home」も演ったな。この日はリクエストはしないでおいたのに(新曲は別)、次々に大好きな曲がでてくる。うれしい。

ただ、やはり初日だからか、歌詞を忘れたのが他にも何曲か(やっぱり途中でアドリブで余計なひと言を挟んで、そのせいで続きの歌詞を忘れるといういつものパターン)、あと演奏ミスもちょっと散見されたね。それに、最後の方でしきりに謝っていたけど、到着してすぐのショーでは弦を張り替えたばかりだから演奏中にすぐチューニングが狂ってしまって、調弦にやたらと時間を取られていた。

でも、決して内容が悪かったというわけじゃない。僕の隣にいたお客さんはマットのライヴに来るのは初めてと言っていたけど、もうほとんどの曲で「いいねーこれ」とつぶやいておられた(笑)。カウンターに置いてあったCDを一枚を残してほとんど購入されていたから、残る一枚(たしか『Made For Working』)も、「これもいいですよ」と、カフェ・ゴーティーの売上に貢献してあげた(笑)

休憩時間中に新曲の話をしていたときに「The Bearの日本語覚えてる?」と思い出させてあげたのを、曲紹介のときにお礼を言ってくれた(別に僕の名前を呼んでくれたわけではないけど)。この日は初めて見たマットのTシャツが二種類売っていて、一つには豹、もう一つには山羊の図柄が書いてあった。マット曰く「ずっと自分のシャツには強い動物の絵を描きたかったんだ」と(山羊が強いのかどうかは僕は知らない)。

「学校のチームはたいてい、強い動物をマスコットにするよね。パンサーズとかクーガーズとか、タイガースとか。でも、僕の中学のマスコットは何だったと思う? チキンだったんだ。そんなチームが勝てるわけないよね」とまたそこはかとなく可笑しい話を。「高校のときは海岸に近かったせいか、ブレイカーズ(波?)というチームだった」。

山羊と豹を日本語で何と呼ぶのか教えてもらって「やぎ、ひょー」とか言ってるのがかわいかった。でも絶対もう忘れてるね。そして、「The Bear」へ。さっきも書いたけど、これってこんなにいい曲だったんだと再認識。帰ってきてからもうシングル盤を何度ひっくり返したことか。

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後半最後の2曲はバンジョレレに持ち替えて、定番の「Animal Boy」とこれは久しぶりに聴いた「All I Know」で一旦終了。とはいえこの狭い店でマットもどこにも行けるわけでもなく(当然楽屋なんてない)、お客さんもまだマットがそこにいるので終わったのかどうかもよくわからず、アンコールの拍手もなんだかパラパラとしたものだった。そこでマットが「なに、もう一曲聴きたいの?」とギターを抱える。

こちらも既に彼のライヴでは定番と言っていい、ポール・サイモンの「Duncan」。そして今度はマットがギターを下ろした瞬間に大きなアンコールの拍手。「何を演ろうか」としばらく悩んだあげく、あまりなじみのない曲を歌いだした。途中の歌詞でわかったけど、あれもポール・サイモンだね。「Under African Skies」だ。こちらはちょっと歌詞が危うかったけど。

機材を片づけているマットのところに行って、シングル盤にサインをもらった。いつもならもう少し長居するんだけど、まだ週の頭だったので、「また日曜日にね」と挨拶して、この時間にはもうすっかり雨模様になった新丸子の商店街を歩いて帰った。

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17 November 2015 @ Bar Derek And The Dominos

1. I Don't Have Anything To Do With My Hands
2. Mountains
3. It's A Beacon It's A Bell
4. Never Had A Gun
5. Osaka In The Rain
6. Ghost Story
7. Got Your Back
8. Valedictorian
9. The Kids
10. 20/20

11. Accidental Thief
12. I Will Do The Breathing
13. Crying
14. John Elliott
15. I Wish You Didn't Feel Like My Home
16. Only For You
17. The Bear
18. Loma Prieta
19. Animal Boy
20. All I Know

[Encore]
1. Duncan
2. Under African Skies
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2015年10月14日

Squeeze live in Southend

どうして僕がロンドンにいるのかという説明は省略し、リヴァプールストリート駅からC2Cに乗り込んで約一時間、ウェストクリフ駅に僕が降り立ったあたりから今日の話をはじめよう。中途半端な時間に宿を出てきたのでお昼ご飯というには遅すぎる時刻だったけど、何かあるだろうと期待していた駅の真ん前にあるフィッシュ&チップス屋のウィンドウに「To Let」の張り紙がしてあるほどの寂れた駅だ。こんな小さな街でライヴを演るんだね。

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会場のクリフズ・パヴィリオン(Cliffs Pavilion)までの道を確かめながらブラブラ歩く。ロンドンからほどよい距離の、もしかしたら昔は海辺の観光地としてそれなりに人を集めたところだったのかも。昔ながらの家並みは、海風にさらされて石造りがかなり傷んでいるように見える。

途中で別のフィッシュ&チップス屋を見つけ、しばらく歩いて会場に到着。駅に近い方の裏口には大きな観光バスや、機材を積んできたと思しきバンが数台、それにキャンピングカーが一台停めてある。崖のパビリオンという名前のとおり、(崖というには大げさだけど)海辺に建った建物で、沖合にはドクター・フィールグッドゆかりのオイル・シティ、キャンベイ・アイランドがうっすら見える。

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建物の壁にはこれから予定されているコンサートや演劇のポスターが沢山。ロック系の音楽だと、スティーヴ・ハケットやホットハウス・フラワーズのポスターが貼ってあった。ホットハウス・フラワーズってもうリアムがソロでやってるだけかと思ってたけど、まだバンドで続けてるんだね。そして、肝心の今日の出し物は、ちっちゃなチラシが貼ってあるだけだった。ポスター作ってないんだね。

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正面入り口にまわり、中に入ってみると、リハーサル中のようだ。「Snap, Crackle & Pop」が聴こえる。へえ、この曲ライヴで演るんだ。ネタバレしたくないという気持ちと、リハーサルを聴いていたいという気持ちが葛藤した結果、もちろんのこと後者が圧勝。地元の敬老会みたいなおばあさん達が行きかう中、謎の日本人がステージ脇のドアのところにずっと突っ立っている姿はさぞかし異様な光景だったことだろう。

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あとリハーサルでは何を聴いたっけ。「Everything」とか「Nirvana」とか「Slap & Tickle」だったかな。誰かグレンでもクリスでもない人が歌っていた、僕の知らない曲もあった。サイモンの声は知ってるから、消去法でいくとあれはスティーヴンだったのかな。しばらくすると客席の柵の搬入のためにステージ脇のドアが開けられたので、リハーサル中のステージが見えるという幸運にも恵まれた。グレンは緑色のTシャツ、ルーシーは白いシャツを着ていた。グレンと話しているギターを持った小さいのはレオンだ。スクイーズをバックにまたあのディスト―ション満載のギターソロを練習してるよ(そのときの様子がスクイーズのインスタグラムにアップされてた)。

物販に次々にグッズが並べられているのを見ていると、係のお兄ちゃんが胡散臭そうにこっちを見る。怪しいもんじゃないと、ひと段落した頃に話しかける。「きっと日本から来た価値はあるライヴになるよ」と、プログラムの最後のページに書かれた苗字が間違えられているというニール君(Brownと書いてあるけど、本当はBronだかBranだって言ってたかな)。まだ他に誰も客がいないので、プログラムの中身やクリスの詩集を見せてもらったりしてた。クリスの詩集、綺麗な装丁でなかなか魅かれたんだけど、冷静に考えてみると歌詞カードと同じ内容のものに20パウンドはちょっと二の足を踏んでしまう。

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結局、この夜のライヴを録音するCD-Rを自分のと友達の分、マグカップとマットのセット(あのキモかわいいジャケのデザインが結局このマットにしかなかったから)、あとニット帽を買った。Tシャツが数種あったけど、どれもデザインがどうもいただけない。ストレートに新作ジャケのデザインのを作ればいいのに。「I'd Forgotten How Much I Like Squeeze」って、いや僕は片時も忘れてないし。そんなシャツを着るのは屈辱的ですらある。

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しばらくニールと話していると、「その机の上に置いてあるクリスのポストカード、持って行っていいよ」と言ってくれた。「友達の分ももらっていいかな?」と訊くと、「箱一杯あるから、何枚でも好きなだけどうぞ」だって。クリス…(笑) というわけで、何かお土産を期待している友達には、もれなくクリス・ディフォードのポストカードを差し上げます。

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リハーサルも終わってしばらく経った頃、時間を持て余して裏口の方に歩いて行ってみると、グレンがいた。呼び止めて、東京から来たんですよと言ってみたけど、なんだか通り一遍の返事。彼のことだから決して冷たいなんて風じゃなかったけど、やっぱりライヴ直前で神経が張りつめてたんだろうね。「ライヴを楽しんでね」と握手をしてくれた後、そそくさとキャンピングカーの中に入っていった。でも、偶然聴けたリハーサルとこの邂逅で、早めに来た甲斐があったよ。

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立見席は入場前にチケットとリストバンドを交換。チケットを取り上げられたから返してほしいと言うと、管理ができなくなるから、もし持って帰りたければ、ライヴ終了後にカウンターに取りに来てと言われた。ただでさえ終了予定時刻(ニールによるといつも22時半過ぎ)と終電時刻(23時22分リヴァプールストリート行き最終)の間にライヴCD-Rを受け取ったりサイン会に並んだりとやること満載なのに。

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19時の開場前から入口前になんとなく列ができはじめたので、慌てて並ぶ。10番目ぐらいかな。出遅れた。せっかく何時間も前から一番乗りしたのに、真っ先に場内に入れないのは残念。それでも、最前列ほぼ中央左寄り、クリス正面の場所を確保できた。グレンの手元もしっかり見える好位置だ。後ろを振り返ってみると、まだフロアは半分ぐらいの入りといったところか。やっぱり年配のお客さんが多いから、二階席の方はもう結構埋まっている。全部で何人ぐらい入るんだろう。東京でいうと、渋谷公会堂を二回りぐらい小さくしたキャパなのかな。こんな辺鄙なところまで観に来るのは大変だったけど、逆に日程の関係でこんな小さな会場で観られたのはラッキー(ロンドンだとロイヤルアルバートホール級だから)。

定刻通り19時半に司会者が出てきて、ドクター・ジョン・クーパー・クラークを呼び入れる。この人、いつから芸名にドクターが付いたんだっけ。スクイーズの楽器を覆い隠すような大きな垂れ幕の前にオルガンが置いてあったから、もしかしてオルガンを弾きながら語ったりするのかと思っていたけど一切そんなこともなく、結局一時間ぶっ通しでしゃべり倒して行った。

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彼のCDは初期のを2枚と、あといくつかのコンピレーションに入ったライヴ録音を持っているけど、マンチェスター訛りの強いあの超弾丸早口はほとんど聞き取れない。皆さんよく笑ってたから結構面白いことを言ってたんだろうけど。ときどき僕にもわかる内容があったけど(何が可笑しかったかは忘れた)、語りだけで一時間はちょっときつかったかな。僕でも知ってる「Beasley Street」とか古い曲(?)に交えて、新作をノートを見ながら読んだりしてた。

10月23日にソニーからアンソロジーボックスセットが出るらしく、しきりにそれを宣伝してたね。僕の知るかぎり、70年代後半に数枚のアルバムを出したきり(アマゾンを見ると、その後にも数枚出ているようだけど、それがオリジナルアルバムなのか編集盤なのかは不明)なこの人が、そんなメジャーレーベルからボックスが出るほどの人気があるなんて。

どこかでクリス・ディフォードのインタビューを読んだときにジョン・クーパー・クラークは時間を引き伸ばしがちというのを読んで心配してたんだけど、一旦引っ込んでアンコールのつもりの最後の一曲を含めてぴったり予定通りの一時間でステージを降り、クルーが垂れ幕を解体してセットチェンジを開始。セットチェンジと言ってもマイクを入れ替えてスクイーズの弦楽器類をステージに置いてチューニングするだけなんだけどね。それがだいたい20分ぐらい。

20時50分ごろだったかな、暗転したかと思うとすぐに(2012年のライヴアルバムでもおなじみの)メンバーをちょっとしたジョークを交えて紹介するMCの声が場内に流れ始めた。ジョン・クーパー・クラークを紹介した司会者とは違う声だね(あの人はあれだけのために来たのか?)。そして、まだステージには誰もいないうちに、ギターの音が聴こえはじめ、ステージ右手からメンバーが順に小走りに登場。なんとギターの音はグレンが実際に弾いている音だ。各メンバーが配置に着いた瞬間、そのギターの音がイントロとなって、「Hourglass」へ。出だしから鳥肌モノの演出。

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隣のおっさんも後ろの奴も大声で歌う歌う。普段ならお前らの歌聴きにきたんじゃないと思ったかもしれないけど、これもグレンマジックなのか、あんまり気にならない。僕も適度な大声で歌う。後ろの奴はきちんと32回の手拍子も入れてたね。今、買ってきたライヴCDを聴きながらこれを書いてるけど、演奏中の観客の声はしっかり聞こえるけど決して演奏と歌の邪魔にはなってない、いいバランスの録音になってるよ。

ステージ中央のグレンは派手な紫色のスーツ(このスーツ自体は見たことなかったけど、いつもの安定したグレンの素っ頓狂ないでたちに安心する)。左側のクリスは黒いスーツ。以前ジュールズのライヴにゲスト参加したのを観たことがあったけど、こんな近距離でこの人を観るのは初めて。両脚を開いてギターを弾く姿を見て、そうだこの人こんな風に立つんだったと、ちょっと感慨深くなる。

クリスの真後ろ、一段高くなったところにキーボードのスティーヴン。鮮やかなブルーのスーツに、ネクタイまでしているのは彼だけ。クリスがマイク前に立つと、僕の位置からはスティーヴンは隠れて見えなくなってしまうんだけど、クリスはどういうわけかコーラスを入れるとき以外はやたらと後ろに下がってギターを弾くので、いい塩梅でクリスもスティーヴンも見られた。

ステージ中央後ろのドラムキットには、Tシャツの上にもはやトレードマークのような黒いベストを着たサイモン。彼の向こう側にはペダルスティールほかマンドリンなどの弦楽器が沢山置いてある。ツアーメンバーのメルヴィン・ダフィー用だけど、この時点では彼はまだいない。そして、グレンの向こうがわ、ステージ右手に銀色のワンピースを着たルーシー。最初に使っていたのは白いジャズベース。

間髪入れずに二曲目「Is That Love?」、そして「Another Nail In My Heart」と、イントロを聴いただけで狂喜乱舞な曲を連発。こんな序盤からなんて贅沢な選曲をするんだ。そしてここで初めてグレンが曲紹介。「クリスがElectric Trainsを歌います」というから、てっきり彼のソロバージョンの「Playing With Electric Trains」を聴けるのかと一瞬期待したが、単に一オクターブ低いスクイーズバージョンだった。まあこれはこれでレア。

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ここでようやく一息入れて、ニューアルバムからの曲を演奏すると話すグレン。まずは、これは多分演らないだろうと思っていた「Only 15」からだったのがちょっと意外。さらに続けて同アルバムから「Beautiful Game」。ここからメルヴィンが参加。僕の位置からはちょうどグレンの後ろに隠れて見えないけど、まあしょうがない。昔の歌を大声で歌っていた周りのおっさん達はここで黙るが、こちらはもうそこそこ歌詞も覚えてるのでこのへんの曲も歌うよ。

グレンのソロライヴでは定番の「Some Fantastic Place」を、彼がエレキギターを使って弾くのを聴いたことはあったっけ。あのギターソロを生でエレキで聴いたのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。ずっとオリジナルと同じラインを弾いていたのが、途中で(グレンが一瞬やばいと思った表情をしたように見えた僕の目に狂いがなければ)違うフレットを押さえてしまって、でもそんなことには一切気付かれないように最後の4小節を新しいメロディーで弾き終えたのを見たときは、ちょっと鳥肌ものだった。まあ、もしかしたらあれが今のお気に入りのフレーズなのかもしれないけどね。それを確かめるために、そのうち今回のツアーの他の日のライヴ盤も手に入れて聴いてみよう。

聴いたことのないおごそかなキーボードのイントロはなんだろうと思っていたら、「The Truth」だった。今回のライヴ、おなじみの曲でもイントロや全体の曲のアレンジが変わっていたものが多かったけど、これもそのひとつ。グレンがソロではいつもやる、6弦のペグを緩めて弾くソロはなかったけど、そういえばこの曲も僕は彼がエレキで弾くのを聴くのは初めてのはずだから、今回のツアーも中盤でかなり指さばきもこなれてきているグレンのソロが堪能できた。いつもアコギのソロを感嘆して見ているけど、やっぱりこうしてエレキのソロを見てしまうと、ほれぼれしてしまうね。

アルバムを聴いたときからイントロが哀愁のマンデイ(笑)だと思っていた「Nirvana」がこの日3つ目の新作からの選曲。それが終わると、オルガンのところに腰掛けたグレン以外は全員ステージ裏に下がり、真上からスポットが当たってグレンが歌いだす。「The Elephant Ride」か。これ、グレンのライヴではしょっちゅう聴いてるから、こうしてソロで演奏されてもちょっとありがたみないんだよね。

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なんて贅沢な文句を言ってるうちに、すぐにメンバーが再登場し、またも新作からの「Everything」。曲の冒頭からずっと鳴り響いてるキーボードのループ音が演奏が終わってもずっと鳴り止まないなと思っていたら、それをバックにグレンが突然「Labelled With Love」を歌い始めた。観客総合唱。そして、最初のフレーズを歌い終えたところでバンド演奏が入る。しびれるねえ。

もともとカントリー風味のこの曲に、メルヴィンのペダルスティールが抜群に合う。もう、なんで今までスクイーズにペダルスティール奏者がいなかったんだろうと思うぐらいのはまりよう。せっかくベントレーがルーシーに交代して見た目のもっさり感が少し薄らいだと思っていたところにまたこのずんぐりもっさり君かと思っていたんだけど、ここでのペダルスティールに限らず実にいい働きをしていたよ、この人。当面はツアーメンバーとしてだけの参加なのかな。それとも正式メンバーとして加入するのかな。

この手の常連曲はほとんど観客全員が最初から最後まで歌ってたと思うんだけど、一番最後のフレーズをグレンが手振りで観客だけに歌わせてそれがばっちり決まると、ほんとうに嬉しそうにしてたね。今、ライヴCDを聴き返してみたら、歌が終わったところでグレンが「ハハハ」って笑ってたよ。

ルーシーの向こう側の高いドラムスタンドにタムが二つ置いてあるなとは思ってたんだ、最初から。そしたら、ここでサイモンが前に出てきて一番向こうに。ルーシーはウッドベースに持ち替え、マットはマンドリン、スティーヴンはアコーディオンで、全員でフロントに一列に並んでアク―スティックセッションの始まりだ。こんなヴァージョンの「Slap & Tickle」は初めて聴いたよ。

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定番コースは「Black Coffee In Bed」へと続く。この曲でもペダルスティール弾きますか。「Labelled With Love」ほどには似合ってないね。まあ、新鮮だけど。ところで、グレンのソロライヴに慣れた日本の僕たちはこの曲とかでは必ずかけあいボーカルの方を歌うのが常なんだけど、どうもこっちのお客さんは皆さんグレンと一緒にメインボーカルのところを歌うね。間延びするでしょうに。と思ってたら、次の「Goodbye Girl」では当たり前だけどメインボーカルのところ、というかサビのタイトルのところを大合唱。

ここでもペダルスティールと、ひき続きスティーヴンのアコーディオンがいい味を出している。それにしても、スティーヴンを初めて見たけど、なんだかひょうきんな動きをするね、この人。サイモンのところに行っておどけてみたり(それに律儀に反応して演奏中なのに変顔するサイモン)、後ろからジャンプしてルーシーの隣に行ってびっくりさせたり。グレンと並んで今やこのバンドの音楽面での要でもある彼がこんなお調子者だっただなんて。

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「次もまたニューアルバムから」と言って、「Open」。意外な曲ばかり演るね。これは新作の中でも好きな部類に入る曲だから嬉しいけど。この曲ってこんなにスティール鳴り響いてたっけ。気持ちいい。そして、グレンがウクレレに持ち替えたのですぐにわかった次の曲は、ニューアルバムのタイトル曲。新曲どんどん演るね。このツアーの初期のレビューにあった「観客が“新曲をもっと演れ!”と叫んだ」てのは何だったんだ。

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カバー曲が2曲、どちらも『Cradle To The Grave』のアナログ盤のD面にボートラとして収録されている、グレンが歌う「Harper Valley PTA」(グレンのソロでは聴いたことがあったはず)と、クリスの「I Don't Wanna Grow Up」(オリジナルはトム・ウェイツって言ってたけど、もう僕が聴かなくなってから久しい92年の『Bone Machine』からの曲か。どうりで知らない曲だったはずだ)。

開始からどれだけ経ってたのかわからなかったけど、もうそろそろラスト間近か。ここからがまた怒涛の名曲集。まずは「Tempted」。途中、クリスと交互にリードヴォーカルを分け合うときに一瞬自分の番だというのを忘れた箇所があって、苦笑いのグレン。かわいい。ソロのときは全部のパートを自分で歌うから、久し振りに(でもないだろうけど、こんなツアーの中盤で)こうして掛け合いやってみてうっかりしたのかな。この曲のエンディングでメンバー紹介。スティーヴンとクリスにだけ「ミスター」を付けてたね(そのお返しに「ギターと素晴らしい声、ミスター・グレン・ティルブルック、レディース&ジェントルメン」と紹介するクリス)。

間髪入れずに「Pulling Mussels」でワウ踏みまくりのギターソロ、そしてとどめの「Up The Junction」。このあたりで、それまでずっと弾いてたヤマハのテレキャスターもどきみたいなギターから1曲だけ日本にも持ってきていた黒いストラトに持ち替えたはずだったんだけど、どの曲だっけ。こうして録音聴いてみるとこの3曲ほとんど曲間なしで演奏してるから、もう少し前の「I Don't Wanna Grow Up」とかだったかな。それともあれはアンコールのとき?

一旦バックステージに戻り、(最近のライヴにありがちなお決まりのようにすぐ出てくる感じでなくしばらくじらしてから)アンコールで再登場。「Snap, Crackle & Pop」と意外な曲でスタート(リハーサルで聴いていたから演奏するのは知ってたけど)。アルバムラストの曲だから、なんだかこれでまた終わってしまって引っ込むのかと思ったけど、グレンが「次はラジオでかかってる曲だよ」とアナウンスするのを聞いてそんな杞憂は吹っ飛んだ。待ってました、「Happy Days」だ。

これもいい曲なんだけどまさかこれが最後なんてことはないだろう、あと演ってないのは何があったっけ、「Take Me, I'm Yours」かな、あとは、えーと…とか思っていたところにグレンが後ろを向いてメンバーに「ワン、ツー、スリー、フォー」と身振りで合図して、「Cool For Cats」! そうだった、なんでこれを忘れてるんだ僕は。イントロ一発だけで大興奮、みたいな曲はこの日も沢山あったけど、その中でもダントツで一番はこれ。僕この曲ほんとに好きだ(それが高じてグレンにまで歌わせたこともあったほど)。

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このときちらっと見た腕時計の針はもうとっくに終了予定時刻の22時35分を廻っていたけど、まだ終わらない。最後はもうこれしか残ってないだろうという「Take Me, I'm Yours」を、またもステージの前の方に全員が出てきて(サイモンは首から下げたタム、スティーヴンはメロディカ、ルーシーとグレンはウクレレ、あとの2人はアコギ)ステージをぐるぐる歩きまわりながら演奏。そして最後は、ステージ左手から観客席に降り、(僕からは見えなかったけど)そのままどんどん後ろのドアの方まで練り歩いて行って、そこで演奏終了。ああもうこれじゃこれ以上のアンコールはできないよ(僕も終電の時刻が迫っていたのでもうそれ以上いられなかったけど)。

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ライヴ中ずっといろんな映像(昔の演奏風景や写真のコラージュやPVなど)が流れてたステージ後ろのスクリーンで、メンバーとクルーの紹介が続いていたけど、ゆっくりそれを見ている余裕のない僕は一刻も早くライヴCDを受け取ってサイン会の列の前の方に並ばないと帰れなくなるので、出口に向かう人の波をかきわけて進む。ドアを出た頃にはCD売り場にもう十数人の列ができていた。

10分ほど待っていると、ようやく列が進み始めた。待ってる間は早く早くと思っていたけど、よく考えたら今ライヴが終わったばかりの音源が、きちんとトラック分けまでされて、たったの10分で売り出されるんだもんね。すごいよ、このシステム。今聴き返してみると、ディスク1の最後にディスク2冒頭の「Slap & Tickle」のイントロがちらっと入り込んでしまっていたり、ディスク2の「Slap & Tickle」の最初の25秒ぐらいが無音になっていたり(その二か所をつないでもたぶん25秒ぐらい音が欠けてる)と、ちょっとした瑕疵はあるんだけど、それ以外は音もいいし、自分の声がときどき聞こえたりと、僕にとっては最高のCDだ。このオフィシャルブートレグを今年のベスト10に入れるかどうかは自分内ルールでは微妙だけど、番外編で入れてもいいんならきっとこれは今年第一位間違いなし。

やっと自分の番が回ってきたと思ったら、CDを手売りしているのはスザンヌじゃないか。数枚分の引換券を手渡すと「一人でこんなに?」と言うから「東京で待ってる友達の分とね」と答えたら、「あらそういえば貴方とは東京で話したかも」なんて言ってくれる。グレンが僕のことを覚えてないのはもうしかたないけど、まさかスザンヌが覚えていてくれているなんて(社交辞令かもしれないけどね)。

そして、僕がCDを手にした頃にはもう数十名の列になっていたサイン会の列に移動。この時点で終電まで残り20分ぐらいだったかな(駅までは速足でも5分は見ておかないと)。サイン会中は写真を撮らないでと注意されたので、残念ながらここでの写真はなし。テーブルに着いているのは右からグレン、メルヴィン、スティーヴン、ルーシー、サイモン、クリスの順。グレンが、僕の番が回ってきたら、まるでさっき(ライヴ前に会ったとき)はすまなかったねと言わんばかりに色々と話しかけてくれる。やっぱりライヴ直前とは全然気の張りつめ方が違うね。あまり沢山のCDにサインしてもらったら悪いかなと思っていたけど、日本から持参した『Cradle To The Grave』も含めて全部にサインをしてくれ、最後には向こうから握手までしてくれた。「また日本に来てくださいね」というリクエストには相変わらず煮え切らない返事だったけど(そんなの「イエス!」って言っておけばいいのにね、正直な人)。

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メルヴィンからルーシーまではもう何をしゃべったか覚えてないや。バンドに正式に加入したの?とかグレンと一緒に日本に来てね、とかそんなことを言ったつもりだったけど、こちらももう早く出ないといけないやら緊張しているやらで自分でも何言ってるかよくわからない。さぞかし英語の下手な日本人が来たと思われたことだろう。

サイモンの前に行くと「さっき君が最前列にいるのを見たよ」と言ってくれるからお返しに「3年前に君を東京で観たよ」と言ったら、「あーっ!!」と大声で僕を指さす。覚えていてくれたんだ。嬉しいね、グレン以外は全員覚えてくれてる(笑)

「明日もう日本に戻らないといけないから、今日はこれからヒースローのホテルまで戻らないと」と言うと、隣のクリスに「ねえ聞いた?この人これからヒースローまで戻るんだって」とか言ってる(クリスはあのシニカルな顔で「隣にいるんだから聞こえてるよ」と言わんばかりの適当な相槌)。なんか、本当にいい人だね、サイモンって。会うたびにこの人には惹きつけられるよ。

そしてクリス。あのスクイーズのクリス・ディフォードと自分がこんな距離で喋ってるんだ、と思うとまた緊張。えーと、何言おう。「他の人には日本に来てくださいって言ってるけど、貴方が飛行機に乗らないのは知ってますよ」何言ってるんだ僕は。「うん、乗らない」あと何かボソボソと(きっとシニカルな)ジョークを言ってたけど残念ながら聞き取れなかった。もうサイン会にも疲れたのか、彼のサインはほとんど数字の9みたいにくりくりっとペンを動かすだけだ。まあ、サイン会なんて嫌でしょうがないんだろうね、この人。そういうところも含めて、いかにもクリス・ディフォード。もっとゆっくり話したかったな。飛行機ぐらい乗ってよ。

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ああ終わった。と感慨にふける間もなく駅へ急ぐ。まだ間に合う時間ではあるけれど、この国のこんなローカルな列車が時間通りに来るのか、それとも早く着いて早く行ってしまうことがあるのかよくわからないから、とにかく一刻も早く駅へ。

駅に着いたらまだ沢山の人がいたので(おそらく100%スクイーズファン)ようやくほっとする。あ、しまった、チケット取り返してくるの忘れた。。 しょうがない、このリストバンド(スクイーズともなんとも書いてないけど)を記念にするか。

そして、リヴァプールストリート駅まで最終便で1時間、地下鉄の終電に乗り継いでハマースミスまで1時間、さらに深夜バス(こんな時間に10分に一本ぐらいの頻度で走ってるなんて、なんて便利なんだ!)で1時間と、合計3時間ぴったりかけて宿にたどり着いた。へとへとだけど、スクイーズのあんなに凄いライヴを、しかもあんな距離で観られたなんて、今でも夢のように思える。この分だと、今回のこのスクイーズ熱も当分冷めそうにないな。


Setlist: 10 October 2015 @ Southend Cliffs Pavilion

1. Hourglass
2. Is That Love?
3. Another Nail In My Heart
4. Electric Trains
5. Only 15
6. Beautiful Game
7. Some Fantastic Place
8. The Truth
9. Nirvana
10. The Elephant Ride
11. Everything
12. Labelled With Love
13. Slap & Tickle
14. Black Coffee In Bed
15. Goodbye Girl
16. Open
17. Cradle To The Grave
18. Harper Valley PTA
19. I Don't Wanna Grow Up
20. Tempted
21. Pulling Mussels (From The Shell)
22. Up The Junction

[Encore]
1. Snap, Crackle & Pop
2. Happy Days
3. Cool For Cats
4. Take Me, I'm Yours
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2015年09月27日

Gareth Dickson live in Tokyo

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以前この近くに住んでいたことがあるので懐かしい思いをしながら歩いてたどり着いたんだけど、砧公園というのは本当にどこの駅からもちょっとした距離があるよね。前日までの雨がやっと止んだのは幸いだったけど、会場の世田谷美術館に着くころにはちょっとシャワーでも浴びたいほど汗をかいてしまっていた。

前日にはなかったガレスの『The Dance』という2010年発売のインストアルバムが数枚物販に置いてあったので、なくなってしまう前にゲット。なにしろ前日に、そこそこの枚数があったヴァシュティ・バニヤンのLP数種が開場直後にまたたく間に売り切れてしまったのを目撃しているからね。案の定、この日も開演時刻の14時になる前に『The Dance』はもう売り切れてしまっていた。

リハーサルがちょっと押しているという話だったけど、なんとか定刻の14時にドアが開いた。いい整理番号だったから好きな席を選べたけど、なんだかやけにステージから客席までの距離が遠い会場だな。ゴーティ基準で言うと、ステージからトイレぐらいまでの距離があるんじゃないか(ゴーティに行く人にしかわからない単位)。

オープニングアクトはmoskitooという背の高い日本人女性。「5曲聴いてください」と言って始めたけど、抽象的なインスタレーションに時折ウィスパーヴォイスを乗せながら延々と続く音像は、どこでどう4回途切れたのかよくわからなかった。

ガレスが登場したのは、15時20分ぐらいだったかな。さっきのmoskitooのときもそうだったけど、演奏が始まるときに一瞬会場が完全に真っ暗闇になってしまうのがちょっとびっくりする。そして、前日の品川教会同様に演者のすぐ前にある暖かい色の電球と、前日ほど豪華ではないものの、ステージ上のスポットライトをうまく組み合わせた照明がガレスの演奏に色を添える。

簡単な挨拶の後、何も言わずに弾き始めたのはライヴ盤『Invisible String』のラストを飾っていた(そのアルバムタイトルを歌詞に持つ)「Amber Sky」。続いては、同じアルバムの1曲目だった「This Is The Kiss」と、そこまでは曲順を覚えてるけど、あとはちょっと自信がない。

前日に品川教会で一曲だけ披露されたあの雰囲気をそのまま持ってきた感じ。深いリバーブのかかったギターの音に、クルーナーヴォイスといってもいいぐらいのガレスの声。どちらの手の指もそんなにせわしく動いてるわけではないのに、すごく細かいテクニカルなフレーズが次々に出てくる。最前列(といっても5メートルぐらい距離があるけど)から観ていても、いったいどの弦を弾いてひとつひとつの音を奏でているのかよくわからない。

歌うとき以上にボソボソと、かなりグラスゴー訛りの強い喋り方をするガレスだから、僕も何を言ってるのかわからないことが多々あったし、一体会場にいた人たちはどれだけ内容を理解していたんだろうと思う。ガレスも自分で「僕がなにを言ってるかわからないだろう」とか「曲の合間にもっとストーリーを話せばいいんだろうけど、思いつかないしどうせ理解できないだろうから」とかいやに自虐的に喋ってたね。きっと、英語圏ですらあちこちで何言ってるかわからないって言われるんだろうね。

「カバーを演るよ、ジョイ・ディヴィジョンの」と言ったときにちょっと会場がざわっとなり、「でもLove Will Tear Us Apartじゃないよ」と牽制してから弾き始めたのは「Atmosphere」だった。これはよかった。ニック・ドレイクのカバーもそうだけど、よく似せてあるのにしっかりと自分のバージョンにしているところがすごいよね、この人。

今制作中だというニューアルバム用の新曲を3曲ほど披露。これがまた、どれもいい曲だった。曲名なんて一切紹介しないし、歌詞もよく聞き取れないから、タイトルはどれもわからないけど、2曲目、3曲目などはまるで極限まで手の込んだ硝子細工を音に変換したものを見ているような気持ちで聴いていた。

それにしても、演奏中に写真を撮りたくなる気持ちはわかるけど(僕も撮っていたけど)、こんなに静かな音楽の最中に携帯のシャッター音や電子音をカシャカシャピコピコ鳴らすのは止めてほしいよ。写真撮るならもうちょっと音がならない工夫してくれないかな。会場にはプロのカメラマンが二人入っていたけど、どちらも演奏中はシャッター音を鳴らさないようにしてくれていたよね。素晴らしいライヴだったけど、それだけが気になった。

本編ラストは何だっけな。イントロのメロディーが「さくら」に似た「Technology」だったかな。とにかく「時間を計ってないからわからないけど、たぶんあと1曲で終わりだと思う」と言って演奏し、挨拶をして出て行ったと思ったら、ほぼ間髪入れずに戻って来てアンコール。「拍手が鳴り止むといけないから」と笑わせる。アンコールは、前日にも演ったヴァシュティ・バニヤンもお気に入りの「Two Trains」。

アンコール込みで1時間ちょっとの短いライヴだったけど、しっかり堪能させてもらった。終わって電気が点いて、ドアを開けたらまだ明るい夕方だったのがすごく違和感があったほど、どこか別世界に連れていかれていたかのような1時間だった。

サイン会が始まる前にアルとヴァシュティに挨拶をしていた僕のところ(というかヴァシュティたちのところ)に来たガレスと少し話す。今度はジョイ・ディヴィジョンのカバーアルバム作ってみれば?と言ったら、「他ににあんまり知らないからなあ。次のアルバムには“ジョイ・ディヴィジョンのカバーは入ってません”って書いておかなくちゃ」なんて言ってた。

ライヴ盤にサインをもらい、ガレスに「また次のアルバムのツアーのときに会おう」と言って、昔住んでいた懐かしい界隈を(またも汗だくになりながら)歩いて帰路についた。

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2015年09月26日

Vashti Bunyan live in Tokyo

一応公開されていたメッセージなので書いていいと思うけど、いつもすてきな音楽を奏でるミュージシャンばかりを呼んでくれているプロモーターの友だちがライヴ会場で人手が足りないと困っていたので、ちょうどその日ならお手伝いできますよと声を掛けてみた。たまたま場所も会社から歩いてすぐの場所だったから、少し早めにオフィスを抜け出せば集合時間に十分間に合うし。

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キリスト品川教会グロリアチャペル。ここでマーク・コズレックを観たのは確か2012年だったかな。雨の中を、約束していた開場時刻の30分前に着いてみると、もう入口の前には十人以上ものお客さんが集まっていた。急遽50枚出ることがアナウンスされた当日券狙いの人たちなのかな。それにしても、開演時刻から逆算すると一時間半も前だよ。熱心なお客さんがたくさんいるんだ。

慣れない手つきでチケットのもぎりをひとしきりお手伝いした後、開演前に「もうお客さんはほとんど入られたから、yasさん中で観てきていいですよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えて会場最後列に座らせてもらった。

自分の聴いている音楽のジャンルが偏っているのかもしれないけど、まさかマーク・コズレックよりヴァシュティ・バニヤンの方が日本で、こんなにまで圧倒的に、ファンが多いとは思ってなかった。あのときは最前列から演者までがやけに遠いなという印象だったけど、今回は教会据え付けの椅子では足りずに前後にパイプ椅子を並べてあったのが、全部びっしりと埋まっている。確か300枚ソールドアウトの前売り券に加えて50枚の当日券が出たという話だったから、あれで350人だったのか。前日の東京公演初日も同じ規模でソールドアウトだったから、二日続けて観た人が何人いるのか知らないけど、あの雨の中を、決して便利とはいえない場所にあるこんな会場に駆けつけるファンが東京だけで700人もいるんだね。

定刻の7時を少し回ったところで、ヴァシュティとガレス・ディクソンが並んで現れる。広いステージの真ん中に向い合せるようにぽつんと置いてある二つの椅子に、ヴァシュティが向かって左側、ガレスが右側の位置で座る。二人のちょうど真ん中にセットしてあった暖かい色合いの電球や、真上からのスポットライト、あちこちにちりばめられた小さな豆電球(LEDかな?)など、ライティングのとても素敵なライヴだった。背面の壁の大きな十字架を照らして影を作っていたのも不思議な雰囲気の演出でよかったし。

一曲目は「Here Before」、二曲目は「Just Another Diamond Day」だったと思う。申し訳ないけど、彼女のアルバムをそんなに熱心に聴いてきたわけではないので、その後なんていう曲を何曲演ったかはあまりよく覚えていない。でも、それぞれの曲の演奏を始める前に、たぶん日本人にもわかるようにとてもゆっくりと丁寧に、それらの曲の成り立ちとか作ったときの思い出なんかを説明してくれていたから、ほとんど歌詞はわからなくてもすっと感情移入して聴くことができた。

もう70歳だなんて思えないほど、1970年のアルバムで聴ける声とさほど遜色のない透き通ったヴォーカル。彼女自身はそれほどテクニカルなフレーズを弾いているわけではなさそうだけど、それに絶妙にサポートするガレスの巧妙なギター。この大きな教会の豊かな音響効果もあって、シンプルで親しみやすいのにとてもおごそかな音楽が場を満たしていく。

曲が終わるたびに盛大な拍手。そして、小さな声で「アリガトウ」と、たぶん唯一覚えた日本語でほんとうに嬉しそうにお礼を言うヴァシュティ。隣でにこやかに見守るガレス。ときどきヴァシュティが話しかけて会話になったとき以外は彼はほとんどしゃべることはなかったけど、今回唯一のソロ公演である今日の自分のライヴ会場の場所をヴァシュティに聞かれたときに「世田谷」とちゃんと発音できていたのが印象に残った。

1966年に出したというシングルは、「Train Song」という曲だね。この人がシングルを出していたなんてことも知らなかったけど、本人も「ラジオ局に何枚か配られたけど、ほとんどオンエアされることがなかったので、誰も聴いたことのない曲」なんて自虐的に笑わせてたね。シングル曲といっても別にそんなにキャッチ―な感じというわけでもなく、あくまでもいつもどおりの彼女の優しいメロディの弾き語り曲。

セットリスト的にはこの位置だというのはライヴ後に言われてわかったんだけど、「Train Song」に続いてガレスのソロコーナー。ヴァシュティがガレスのことを紹介し、彼といつどうやって知り合ったかなんて話をしばらくした後、彼女が初めて聴いて気に入ったという「Two Trains」を演奏。ほぼガレスの弾き語りに、ときおりヴァシュティが小さくコーラスを入れていた。

実を言うと僕はどちらかというと今回の来日ではガレスを観るのが目的で、今日のソロ公演もまっ先にチケットを押さえたぐらいだったから、あるとは思っていなかったこの一曲だけのソロコーナーは嬉しいサプライズだった。ニック・ドレイクを例えに出すのはあまりにもベタだとは思いつつも、きっとニックが演奏するのを目の前で見たらこんな感じなんだろうと思わせる、素晴らしいギターと落ち着いた声。

あの満員のお客さんのうち彼のことをちゃんと知っていた人がどれだけいたのかわからないけど、きっとあれを聴いて今日のソロ公演に行ってみようと思った人も多かったんじゃないかな(実際、終演後に物販のところにいたら、ソロ公演を予約したいという人やガレスのソロアルバムをいろいろ質問しながら買っていく人が何人もいた)。

たしか本編ラストは「Heartleap」だったかな。彼女の娘さんが描いたというジャケットの鹿の絵の話から、ずっと頭の中に流れていたというメロディをこの曲に仕立て上げ、鹿の絵のタイトルを少し変えてこの曲につけたというくだりを話してくれた。

丁寧なお辞儀をして出て行った二人を、当然の如く大きなアンコールの拍手が呼び戻す。アンコールはなんて曲だったかな(もしかしたらアンコールが「Heartleap」だった?)。一曲だけ演奏して、また楽屋に戻ったところを、さらに大きな拍手。

「もう演奏できる曲がないから」と、「Just Another Diamond Day」をもう一回演奏して、この日のライヴは終了。二回のアンコールを入れても、一時間ちょっとの短いライヴだった。だけど、実感としてはもう一時間も経ったのかと思えるほど充実したライヴだったと思う。

そこから先があんなに長い夜になるとは。終演後に会場の出口のところでサイン会が行われたんだけど、たぶん350人のお客さんのほとんどがそれに参加したんじゃないかと思えるほどの長蛇の列。たぶん時間制限のためか、写真撮影は禁止という話だったんだけど、それでもヴァシュティはひとりひとりと話しながら丁寧にサインをしているから、長蛇の列が一向に減らない。結局、会場の撤収なんかも少し手伝いながら列のほぼ最後尾で僕もガレスとヴァシュティにサインをもらったのは、終演後のほぼ二時間後だった。ライヴ自体もそうだけど、70歳の彼女によくあれだけのサイン会をこなせる体力と気力と笑顔が残っているもんだ。

そこまでダラダラいたおかげで、ヴァシュティとガレス、それに一緒に来ていたヴァシュティのパートナーのアルと少し話をする機会ももらえた。ガレスに「ライヴで一曲だけ演奏できるとしたら、いつもあの曲(「Two Trains」)なの?」と訊くと、ヴァシュティが「あれは私がすきな曲だから。私が親分だから決めていいの」と冗談をいい、アルが「ヴァシュティのTrain Songに続けての演奏だから、Two Trainsがぴったりだろう」とフォロー。なるほど。

もうあと何時間かで支度して家を出ないと。砧公園の世田谷美術館というライヴ会場としては一風変わった場所で、2時開場というこれまたやけに早い時刻のライヴ。なんでも、美術館が5時に閉まってしまうから、それに十分間に合うような時間設定だとのこと。昨日一曲だけ観られたあのガレスの独特の世界を今日はたっぷり堪能してこよう。ヴァシュティとアルも観に来るって言ってたから、どこかでまた会えるかな。

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2015年09月14日

期待値超え - Squeeze

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Squeeze 『Cradle To The Grave』

もうほとんど休止状態だったこのブログを半年ぶりに更新してみようという気にさせてくれたのは、今年の3月のグレン・ティルブルックの来日公演だった。そして、それ以前もその後も、もはや自分が行ったライヴの記録メモとしてしか機能していないここに、調べてみたら2年8か月ぶりにアルバムについて書いてみたい、いや書かずにおれないと僕を奮い立たせたのも、やっぱり同じ人(たち)だった。

新曲からなるオリジナル・アルバムとしては1998年の『Domino』以来17年ぶりとなるスクイーズの新作。2007年の再結成以来、過去曲の再録やライヴ盤、ライヴ会場での録音即売盤、デモ音源集など、マメに追いかけようと思ってもとても全部は集めきれない(特に膨大な数の即売盤)ほどのアイテムが出ていたし、グレンはその間も何度も来日してくれていたから、17年なんてブランクはもちろん感じなかった。

あのときのメンバーをスクイーズと呼ぶのが適切なのかどうかいまだによくわからない『Domino』は申し訳ないけど中途半端な出来のアルバムだった。そして、今回のアルバムに収められることになるいくつかの曲の原型は、2012年の即売盤やデモ集、そして今年初頭のグレンのソロライヴでも披露されていたから、ある程度の内容は想像がついていた。またしても申し訳ないけど、どの曲の原型を聴いてもまあそこそこの出来だよね、という程度の感想しか持っていなかった。

8月13日にスクイーズのサイトでこのCDが1000枚限定で発売されるとの告知。何が限定なのかさっぱりわからなかったけど、躊躇なく注文。送料も含めるとべらぼうな値段になったけど、しょうがない。これまでも決してセンスのいいジャケばかりじゃなかったスクイーズの歴代のアルバムの中でも群を抜いて酷いジャケだけど、それもしょうがない。なんだかわからないけど限定らしいから、またこれが入手不可能なんてことになったらえらいことになる。

先週末、出張から戻ってきた僕の目の前には、見覚えのあるQuixotic Recordsのロゴの入った封筒が。やった、届いた。8月28日の発送開始から約二週間だから、たぶん日本では一番早く入手できた中の一人なんじゃないかな(ドヤ顔失礼)。

上にもリンクを貼ったアマゾンには10月9日発売と書いてある。しかも予定価格は僕がサイトから買った値段(送料込み)の半値ほどだ。むう、限定じゃなかったのか? じゃあ僕の手にしているこのデジパックが限定? それともこのブックレットとは別に入っている切符のレプリカみたいなのが限定? まあなんだかよくわからないけど、とにかくオフィシャル発売の一か月以上も前に入手できたんだからよしとしよう。

さて、ここからは中身について書くから、オフィシャル発売を待って買おうと思ってる人や、スクイーズのサイトからまだ届いてない人で、もしネタバレが嫌ならここで読むのをやめてもらったほうがいいね。


裏ジャケに書いてある全12曲中、これまでなんらかの形で聴いたことのあるタイトルは「Cradle To The Grave」、「Beautiful Game」、「Top Of The Form」、「Haywire」、「Honeytrap」、そして、アルバム先行シングル(盤は出てないけど)としてPVが出回った「Happy Days」の6曲。今年のグレンのソロライヴで、ニューアルバム用の曲と言って演奏した何曲かのタイトルがないね。

いろんな形でもう何度も聴いてきたオープニングの「Cradle To The Grave」の、これは新録。そこから間髪入れずにどんどん曲が繰り出されてくる。初めて聴く「Nirvana」も悪くない。グレンのライヴで聴いた「Beautiful Game」がこんなにいい出来に仕上がってるなんて。そして、久々にスクイーズらしいシングル曲「Happy Days」。

10月に出るLPは2枚組で、ここに収められた12曲がA〜C面に4曲ずつ収録されるのにリンクして、このCDでもそれぞれ4曲ずつがほとんど曲間なしでつながっている。スクイーズにしては珍しい作りだね、こういうの。でも、そういうつなぎも曲順もよく練られてるよ。プロデューサーがグレンとローリー・レイサムだけど、ローリーのいつもの過剰なまでの装飾音とかはうまく抑えられてる。ちなみにLPのD面はボートラ4曲収録予定。

一昨年に出たグレンの『Happy Ending』がやっぱりグレン本人とローリーの共同プロデュースで、正直言わせてもらうと僕にはあのアルバムはそこそこの出来の曲をローリーならではのオーバープロデュースでなんとかやっつけた、若干いただけないアルバムだった。大好きなグレンのアルバムをけなしたくはないんだけど。すごくよかった来日公演のメモリアル盤でもあるし。

でも、今回のアルバムは曲と音作りのバランスが非常によく取れている。さっき書いた曲間のつなぎはあくまでもさりげなく、余計な音はきっぱりと省かれて、そしてなによりも、やっぱり曲がいいよ、今作は。いや、そりゃ「Another Nail」とか「Up The Junction」みたいなのが入ってるかと言われたら、そんなのは最早ないものねだりに近いから無茶言うなってなもんで。それでも、この12曲中、少なくとも半分は僕はライヴで何度も繰り返して聴いてみたくなる曲ばかりだ。そんなバランスのアルバムをスクイーズが出したのって、一体いつ以来だ?

音の感触が何かに似ていると思ったら、『Pandemonium Ensues』だ。ああ、それで僕はこのアルバムを一回目からこんなに好きになってしまったんだな。なんでそんなに似てるんだろうと思ったら、あ、そうか。演奏メンバーがほぼ同じなんだよね。ベントレーが辞めて代わりのベーシストがルーシーになったと聞いたときにはあまりにも予定調和というか、またクリスが拗ねて辞めてしまうんじゃないかと危惧してしまったもんだけど、たぶんサイモンとスティーヴンにとっては、ルーシーのベースの方がしっくりくるんじゃないだろうか。きっと、グレンも。

演奏メンバーが「ほぼ」同じと書いたのも、ブックレットに書いてあるクリスの担当楽器がアコギだけなのに対して、グレンはリードギター、ムーグ、アイパッド、ムーグベース、チェレステ、ティンパニ、ウクレレ、オルガン、パーカッション、ベース、ミニムーグ、シタール、エレクトーン、ストリングス。ついでにスティーヴンはウーリッツァー、ピアノ、オルガン、チェレステ、シンセ、メロディカ。リズム隊の2名は省略するけど、このバンドの音ほぼグレンとスティーヴンで作ってるようなもんだよね。

演奏面でクリスの影が薄いのは今に始まったことじゃないけど、今回ちょっとあれ?と思ったのは、歌詞があまりにもストレートなこと。「Happy Days」なんてPVで観たときにクリス作だなんて信じられなかったほどのあっけらかんとした能天気な歌詞。きっとどこかに僕が聴きとれなかったオチがあるに違いないとブックレットを追ってみたけど、肩すかし。変化球を待って打席に立っていたら、予想外のストレートで見逃し三振。みたいな感じ。

強いて言えば、若者のリビドーを描いた「Haywire」なんかはいかにもクリスが書きそうなタイプの曲かもしれないけど、それにしても彼がこれまでに書いてきた数々のDVや離婚やアル中や猟奇殺人についての曲に比べると、おとなしいよね。まあ、まだ歌詞までじっくり読みながら聴いたのは数回だけだから、これからちょっと深読みしつつ繰り返して聴いていこう。

2012年以降にいろんな形で聴いてきた曲が沢山と書いたけど、曲がりなりにもシングル扱いだった「Tommy」がないなとは思ってたんだ。だから、LPで言うところのB面ラスト、これも新録の「Top Of The Form」の次にあのお馴染みのストリングスが聴こえてきたときにはびっくりした。「Sunny」って、タイトル変えたのか。このアルバムはBBCの同名ドラマのサントラということだから、その登場人物か何かにちなんで変えたんだろうか。これからライヴでこの曲を歌うときは、どっちの歌詞で歌うんだろう。

すっかりかっこよくなって出直してきた「Honeytrap」(デモ集のときは二単語だったのに、微妙にタイトル変更)に続いての「Everything」ってなんか聴いたことある。と思ったら、これグレンがライヴで演ってた「You」じゃないか。歌詞も替わって、タイトルも変更したんだね。

なので、グレンが年初にライヴで披露したにもかかわらず結局ボツになったのは、「Wait」だか「Weight」だかタイトルがわからなかった、ピアノで弾き語りをした曲だけ。結局あの曲名の謎は解けないままか。このアルバムのアウトテイク集が出るのは何十年後のことだろう。

ふう、もうだいたい書きたいことは書いたかな。まだ届いて二日で10回も聴いてないから、これから聴き込んでいったらまた新たな発見とかあるかも。感想も変わるかもしれないし。そのときは追記しよう。

そうそう、ひとつ嬉しく思った発見があった。ブックレットの最後、山ほど書いてあるサンクスクレジットの中に、ジュールズ・ホランドの名前が。しかも、クリス単独のところじゃなくてグレンとクリス連名のところに。なんかちょっと歩み寄りがあったのかな。聞くところによるとジュールズのレイターにスクイーズが出演するらしいから、激久し振りにジュールズ入りスクイーズの演奏が観られるんだね。はやくネットに上がらないかな。


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